ストレスタンパク質:
生体をストレスから守る 5 つのタンパク質ファミリー
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このページの最終更新日: 2024/12/15広告
概要: ストレスタンパク質とは
ストレスタンパク質は、細胞が熱などのストレスに曝されたときに発現量が増大し、細胞を守る働きを示すタンパク質の総称である。
- 新しく合成されたタンパク質の折りたたみを助ける (分子シャペロン)。
- 熱などのストレスによって変性したタンパク質を修復する。
- 修復不能なタンパク質は、リソソームなどの分解系へ輸送する。
かつては、熱によって誘導されることから熱ショックタンパク質 (heat shock protein; HSP) と呼ばれたが、熱以外のストレスでも似たような働きを示すことから、現在はストレスタンパク質と呼ばれることが多い。
ストレスタンパク質の発現誘導を伴うような熱に対する応答を、熱ショック応答という。
ストレスタンパク質と染色体パフ
HSP 発見の経緯として、よく引用されるのが Drosophila の染色体パフである (図, Public domain)。
1962 年の論文で、Ritossa は熱ショック後にショウジョウバエ Drosophila の染色体に膨らみができることを報告した (2)。図はこの論文のものではないが、同様に熱ショック後のショウジョウバエの染色体を示したものである。a が熱ショック後、b が熱ショックを与えていないコントロール。縮尺は同一。
熱ショックによって、C1 という領域の上に、非常に大きなスペースが生じていることがわかる。
これは、染色体上で 転写 transcription が活発な部位である。したがって、Ritossa の発見は、熱ショックによって特定のタンパク質の転写が活性化することを示していた。このタンパク質がのちに同定され、HSP と名付けられたわけである。
もう少し、このあたりの研究の流れを見てみよう。Puff が RNA 合成の場であるということは、文献 2 のイントロで述べられており、この時点で既知であった。Puffing のパターンが異なることから、さまざまな状況に応じて異なる遺伝子が転写されるのだろうと予想されていた。この論文は、そのような背景のもとで温度変化の影響を調べたものである。Drosophila の唾液腺を使用。現在よく使われている D. melanogaster ではなく、D. busckii という種を使っている。D. melanogaster の結果は、別論文で報告すると書かれている。
この puff を単離したところ、DNA に相補的な RNA が含まれていたという報告。さらに、この RNA を in vitro translation すると、既に知られていた HSP が得られたという報告が続く。
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ストレスタンパク質ファミリー
ストレスタンパク質は、分子量およびアミノ酸配列の相同性から、5 つのファミリーに分けられることが多い。
HSP110 ファミリー
HSP110 family は、lower eukarhylotes のみがもつ HSP104 を含まない、110 kDa 前後のストレスタンパク質である。これは HSP70 と系統的に近く、HSP110-HSP70 superfamily として捉えるべきであるとする報告がある (1)。
HSP90 ファミリー
> カンブリア爆発と HSP90 に関する意見論文 (3)。
- カンブリア爆発は 545 to 530 Ma に起こった。発生過程を制御するシグナル伝達系が急激に進化したということである。スノーボールアースと呼ばれる 670 and 635 Ma の氷河期が、これに重要だったと提唱する。
- HSP90 が、シグナル分子のシャペロニングや細胞内局在の抑制からストレス耐性に使われるようになると、それによって抑圧されていた mutant などが発現するようになる。Drosophila で論文があるようだ。
- 大気中の酸素濃度が上昇したのもカンブリア紀である。
- HSP90 によって細胞内局在が制御されるのは、たとえばステロイド受容体、aryl hydrocarbon receptors, MyoD, mutated p53, MAPK など。
- Drosophila HSP90 ヘテロ変異体は、低温、高温で多くの発生異常を示す。
- これらの発生異常体は、野生型に対してアドバンテージがなく、カンブリア紀爆発とは異なる現象であるとも思える。しかし、当時の動物は体制的にもっとシンプルであり、進化をもたらした可能性は否定できない。C. elegans がこれを検証する良いモデルになるだろう。
HSP70 ファミリー
もっともよく知られたストレスタンパク質である。原核生物では dnaK という名で呼ばれる。
大腸菌の dnaK は dnaJ を同じオペロン上にあり (5)、大腸菌の DNA 合成に必須でったことからこのように命名された。変異株は、許容温度 30°C での DNA 合成や生育ではなく、非許容温度 43 °C でのみ必須な因子として機能する (5)。
大腸菌での熱による dnaK などの誘導は、少なくとも一部は σ32 によって転写レベルで行われる (6)。σ32 は RNA ポリメラーゼの σ サブユニットの一つである。DnaK には DnaJ および GrpE という補助因子があり、これらが DnaK シャペロンシステムとしてともに機能する。
DnaK シャペロンシステムは σ32 に結合し、熱ショックプロモーターからの転写を阻害する。つまり negative feedback があり、これは真核生物の HSP70 と HSF1 の関係によく似ている。また、プロテアーゼ FtsH も熱ショックで誘導され、これは σ32 を分解することで negative feedback を行っている。
HSP60 ファミリー
シャペロニン chaperonin という名で呼ばれることも多い。真核生物では、一般にミトコンドリアに局在する。
原核生物の相同分子は GroEL と呼ばれる。
HSP40/DNAJ ファミリー
Small HSPs ファミリー
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References
Easton et al. 2000a. The Hsp110 and Grp170 stress proteins: newly recognized relatives of the Hsp70s. Cell Stress Chaperones, 5, 276-290.Ritossa, 1962a. A new puffing pattern induced by temperature shock and DNP in Drosophila. Experientia 18, 571-573.Baker, 2006a. The genetic response to Snowball Earth: role of HSP90 in the Cambrian explosion. Geobiology 4, 11-14.Hu et al., 2022a. Heat shock proteins: Biological functions, pathological roles, and therapeutic opportunities. MedComm 3, e161.森田ら, 1988a. 大腸菌 dnaK および dnaJ 遺伝子の機能. 杏林医会誌 19, 3-14.龍田, 小椋 1999a. 大腸菌の熱ショック応答-分子シャペロンDnaKとFtsHプロテアーゼによる制御. 生物物理 39, 295-300.
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