キモトリプシン: 実験にも使われるタンパク質分解酵素

protein_gene/c/chymotrypsin
8-28-2017 updated

  1. 概要: キモトリプシンとは
  2. 活性発現機構
    • 酵素の活性化
    • ペプチド結合の切断

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概要: キモトリプシンとは

キモトリプシン chymotrypsin はタンパク質 protein のペプチド結合を切断する プロテアーゼ protease の一つである。主に 小腸で働く 消化酵素 digestive enzyme であるほか、様々なタンパク質実験にも利用されている。

Tryptophan, tyrosine, phenylalanine, methionine といった 大きな疎水性アミノ酸の C 末端側 でペプチド結合を切断する。

活性発現機構

酵素の活性化

活性型 chymotrypsin は球状の分子で、ジスルフィド結合で繋がれた 3 つのポリペプチド鎖から成る (1)。

  1. 膵臓 pancreas の 腺房細胞 acinar cellsで chymotryptinogen として発現し、細胞膜に結合した顆粒 granule 内に保存される (1)。
  2. ホルモンまたは神経刺激により、顆粒の中身が十二指腸 duodenum に放出される。
  3. Trypsin に N 末端 (文献 1 では Arg 15 と Ile 16 の間) で切断され、活性をもつ π-chymotrypsin になる。
  4. π-chymotrypsin は自己消化を起こし 3 つのペプチド A, B, C chain になる。これらはジスルフィド結合で繋がれており、安定な活性型の α-chymotrypsin を構成する。

ペプチド結合の切断

> 活性中心は Ser195 で、His, Asp とともに catalytic triad を形成する (1)。
  • His イミダゾール環の正電荷が Ser の OH 基のプロトンを事実上引き抜いている。
  • Asp はイミダゾール環の逆側の NH と 水素結合を作り、これを補助している。
  • その結果、Ser の OH 基は O- になっている。Alkoxide イオンである。
  • O- は強い求核剤 nucleophile であり、触媒として働く。

以下の R1-CO-NH-R2 というペプチド結合をキモトリプシンが切断するときに、何が起こっているのかをみていってみよう (1)。


R1-CO-NH-R2 + H2O    →     R1-COO- + NH3+

  1. キモトリプシンと基質が結合する。
  2. Ser の O- がペプチド結合の carbonyl carbon (CO-NH の C) を攻撃する。
  3. Carbonyl carbon は C=O の二重結合が奪い取られ、Ser の O、もともとの O、N、側鎖の 4 者と結合した不安定な tetrahedral intermediate が生じる。
  4. 不安定な tetrahedral intermediate は、キモトリプシンの Ser 195 の近傍にある Gly 193 などが作る oxyanion hole と相互作用することで、安定化される。
  5. アミノ基側の R2-NH2 が遊離する。水素を授受する能力のある His が H+ を渡している。一方、R1-CO は C を介して酵素と結合している。中間体としての acyl-enzyme である。
  6. R2-NH2 が占めていたスペースに 水分子 が入り込んでくる。
  7. His が水分子からプロトンを引き抜き、OH- が R1-CO-Enzyme の C=O 結合を攻撃する。
  8. R1-CO-OH が遊離し、酵素は次の反応を触媒できるようになる。

キモトリプシンは、活性中心の近くに S1 pocket という疎水性のアミノ酸がフィットするポケットをもっている。これが切断部位の特異性を決めている。

このように Ser が求核攻撃を行うプロテアーゼを serine protease という。このほか、以下のプロテアーゼファミリーがある。

  • システイン cysteine のメルカプト基 mercapto group -SH が同じ役割を果たす cysteine protease。
  • 2 つのアスパラギン酸 aspartic acid が水に基質に結合し、水に求核攻撃をさせる aspartyl protease。
  • 金属イオン、ほとんどの場合 Zn2+ が水を活性化し、求核攻撃させる metalloprotease。

N-acetyl-L-phenylalanine p-nitrophenyl ester がキモトリプシンに分解されると、黄色の p-nitrophenolate が生じる。これを利用して活性を測定することができる (1)。

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References

  1. Berg et al. Biochemistry, Seventh Edition: 使っているのは 6 版ですが 7 版を紹介しています。