食事制限 (カロリー制限) の概要と目次

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8-23-2017 updated
食事制限 (カロリー制限) に関する項目の上位ページです。

このページ

  1. 概要: 食事制限の定義
  2. カロリー制限と寿命
    • サル
    • ラットおよびマウス
    • ショウジョウバエ

他のページ

  1. 餌の量を振ることの重要性
  2. DR + 網羅的解析の論文まとめ
  3. 親の DR の影響


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概要: 食事制限 (カロリー制限) の定義

適切な栄養状態を維持したまま、摂取するカロリーを減らすことを カロリー制限 という。英語では calorie restriction または caloric restriction (CR) である。

老化 を遅延させることから、健康に長生きするための手段として注目されている。

ただし、摂取カロリーを維持したまま特定の栄養素を減らしても、寿命の延長がみられる場合がある。たとえばタンパク質制限 protein restiction でも寿命は長くなる (3I)。 この現象まで含めた概念として、食事制限 dietary restriction (DR) という言葉も提唱されている。ショウジョウバエの研究では、こちらが使われることが多いようである。

このサイトでは、なるべく DR という言葉を使うようにしたい。


  • Calorie restriction (CR), defined as a reduction of caloric intake with adequate nutrition, ameliorates common diseases of aging, such as... (1)

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食事制限 (カロリー制限)と寿命

生物種ごとに DR と寿命に関する知見をまとめる。内容が多くなってきたら個別のページを作る。

サル

> 2009 年に DR が Resus monkey の寿命を延ばすという論文が発表された (2)。
  • Wisconsin National Primate Research Center からの論文で、20 年にわたる飼育実験である。
  • 論文発表の時点で 50% の control animal と 80% の CR animal が生存している。
  • 寿命だけでなく age-associated pathologies(糖尿病、ガン、心筋症、脳の萎縮など)も抑えられた。

ラットおよびマウス

カロリー制限による ラット の寿命延長は、McCay (1935) で報告された (3)。この論文は古典として様々なところで引用されている。マウス でも DR による寿命の延長が見られるという報告は多数ある。

げっ歯類の DR に対してはメタ・アナリシスの論文があり (7)、この論文の内容が現時点での私の理解となっている。

> 1934-2012 のラット、マウス DR 実験のメタ・アナリシス (7)。
  • ラットは median lifespan が 14 - 45% 延びる。およそ半分の実験で寿命延長が観察されている。
  • マウスでは DR の効果は弱く、median lifespan は 4 - 27% 延びる。
  • とくに inbred mouse strain では寿命が延びない傾向にある。逆に短くなる strain もある。
  • この結果から genetic background が重要なことがわかる。しかし、マウスの DR 実験の結果を遺伝的に多様なヒトに適用することに関しては悲観的な結果と言える。

以下は個々の論文のメモ。

> 106 匹のラットを 3 グループに分け、寿命だけでなく成長なども測定 (3R)。
  • Group I (AL ), 平均寿命オス 483 日、メス 801 日。
  • Group II (離乳後に DR), 平均寿命オス 820 日、メス 775 日。
  • Group III (離乳後 2 週間 AL, その後 DR)。平均オス 894 日、メス 826 日。
  • Groups II, III の DR は、体重が増加しないように餌の量を調整している。
  • タイトルは The effect of retarded growth upon the length of life span and upon the ultimate body size であり、体サイズの減少が及ぼす影響と捉えていたと思われる。

> 1 日おきに給餌する IF、毎日のカロリーを 60% にする CCR ともに寿命延長 (4I)
  • C57BL/6 mice を使用。CCR は、この論文ではLDF (limited daily feeding) と呼ばれている。
  • 9 週齢まで AL で飼育し、その後 LDF は 60% 給餌、IF は一日おき給餌をしている。
  • 両方でインスリン感受性が増大し、神経が保護されることを示唆する結果が得られたが程度が違った。
  • LDFでは、カロリーを40%減らすと体重は49%低下する。つまり燃費も悪くなる。
  • IF で餌の総摂取量は変わらなかった。餌がある日は2倍ぐらい食べているということ。
  • IF で IGF-I と β-hydroxybutylate が増えるが、LDF では減るのが大きな違いだった。
  • 大事なのは総カロリー量だけではないと主張している。

ショウジョウバエ

ショウジョウバエ Drosophila melanogaster でも DR によって寿命が長くなるという論文があり、chico という変異体を使った Clancy (2002) を 餌の量を振ることの重要性 のページで図を引用しながら紹介している。

しかし、ショウジョウバエの結果については異論がある (5)。文献 5 では以下のような点を指摘し、短くなった寿命をレスキューしているに過ぎないと主張。古い論文なので、続報を探してアップデートしたい。

> Drosophila の寿命は DR では延びないという主張 (5)。2005 のレビュー。
  • Drosophila の寿命は 45 - 60 日だが、多くの研究では 30 日未満。
  • Drosophila 寿命研究の大御所は Partridge lab だが、この飼育条件は卵数か非常に少ない poor rich medium である。これ以外で寿命延長の報告は 1 件のみ。
  • Optimum condition に近い条件じゃないと、DR で寿命が延びると言ってはいけないのではないか。

文献 5 の著者である Le Bourg は、2006 年に「餌の少ない場所から移動するコストが低い生物の場合、DR で寿命を延ばす機構は進化しないのではないか」という総説を発表している (6)。ハエ、鳥類、ヒトなど。説得力のある説に思える。

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References

  1. Smith et al. 2009a. Small molecule activators of SIRT1 replicate signaling pathways triggered by calorie restriction in vivo. BMC Systems Biology 3, 31.
  2. Colman et al. 2009a. Caloric restriction delays disease onset and mortality rhesus monkeys. Science 325, 201-205.
  3. McCay et al. 1935a. The effect of retarded growth upon the length of life span and upon the ultimate body size. Nutrition 5, 155-171.
  4. Anson 2003a. Intermittent fasting dissociates beneficial effects of dietay restriction on glucose metabolism and neuronal resistance to injury from calorie intake. Proc Natl Acad Sci USA 100, 6216-6220.
  5. Le Bourg and Minois 2005a. Does dietary restriction really increase longevity in Drosophila melanogaster? Ageing Res Rev 4, 409-421.
  6. Le Bourg 2006a. Dietary restriction would probably not increase longevity in human beings and other species able to leave unsuitable environments. Biogerontology 7, 149-152.

参考書