NMR による乳酸の検出、各組織の乳酸濃度一覧

other_metabolites/organic_acids/lactate_nmr

このページの最終更新日: 2024/02/14

  1. 概要: NMR による乳酸の検出
  2. 各組織の乳酸濃度一覧

広告

概要: NMR による乳酸の検出

乳酸 lactate には、3 つの化学的に異なるプロトンがあるが、COOH の H は生理的 pH で電離して COO- となっているため、2CH の H および 3CH3 の 3 つの H が NMR で検出される。

なお、水酸基 OH のプロトンは溶媒 H2O のプロトンと速い交換をしているため、NMR では一般に極めて検出しにくい。

1H NMRでは、メチル基の H が 1.31 ppm にダブレットで非常に見やすいピークとして現れる (以下の表を参照、文献 1,2)。Methine group のピーク 4.09 ppm は、通常は水のピークと近過ぎて見えない。

1.31 ppm 付近には脂質 lipid のピークもあるので、抽出法によっては干渉する。いくつかの editing 法が提唱されているほか、また、エコー時間 TE が長いと脂質のピークが消えるので、これも観察に利用されている。


Group Shift in H2O (ppm) Shift in D2O (ppm) Multiplicity J (Hz) Ref
2CH 4.0974 4.0908 Quarted 6.933 1
3CH3 1.3142 - Doublet None 1

下の図は、ラット rat の脳抽出物の 1H-NMR spectrum である。乳酸のメチル基のピークと、その近くに Ala のピークが見える。

乳酸とアラニンの構造は非常に似ており、CH3-CH-COO- という骨格の CH に、OH がついているか、NH2 がついているかというだけの違いである。これが、両者のピークが近い位置に現れる理由である。

乳酸、アラニンのピーク

乳酸のピークは、なぜかいつも右側がやや低くなる傾向にある気がする。Ala は必ずしもそうではない。また、ときどき Ala と乳酸の間にブロードなピークが見えることもある。これも何だかよくわからない。


広告

各組織の乳酸濃度一覧

血液

濃度は mM 表示だが、µmol/mL と同じ値になる。

このほか、生物種は特定されていないが、運動後に増大して血中濃度が 30 mM にも達すると書かれている文献がある (8I)。乳酸は、受容体 HCA1 (GPR81) を通して脂肪細胞で lipolysis を阻害する。したがって、血中乳酸量が高いときは、しばしば遊離脂肪酸 FFA 量は低下している。

生物種

乳酸濃度 (mM)

条件など

サメ

1.10 - 5.03

Spiny dogfish Squalus acanthias, 3 - 29 日の絶食後の血液中乳酸濃度 (3)。

カエル

0.46 - 2.96

American bullfrog Rana catesbeiana, 手術のストレスで上がるが、24 時間後には安定したというデータ (4)。

ヒト

0.33 - 1.9

血中乳酸値の 正常範囲 として示されている値 (5D)。

3.24 ± 1.02

NMR で測定、n = 10 (5)。酵素法でもほぼ同じ値が出た。


ラットの脳で、1.5 - 4 µmol/g という値が報告されている (7)。


広告

コメント欄

サーバー移転のため、コメント欄は一時閉鎖中です。サイドバーから「管理人への質問」へどうぞ。

References

  1. Govindaraju et al. 2000a.Proton NMR chemical shifts and coupling constants for brain metabolites. NMR Biomed 13, 129-153.
  2. de Graaf, 2007. In vivo NMR spectroscopy, 2nd edition.
  3. deRoos 1994a. Plasma ketone, glucose, lactate, and alanine levels in the vascular supply to and from the brain oh the spiny dogfish shark (Squalus acanthias). J Exp Zool 268, 354-363.
  4. Gibbs et al. 1991a. Plasma levels of glucose, ketone bodies, lactate, and alanine in the vascular supply to and from the brain of the adult American frog (Rana catesbeiana). J Exp Zool 258, 14-23.
  5. 安藤 2012a.1H-NMR メタボロミクスの メタボロミクスの メタボロミクスの基礎技術開発と透析治療への応用. 東北大学博士論文.
  6. Kriat et al. 1992a. Quantification of metabolites in human blood serum by proton magnetic resonance spectroscopy. A comparative study of the use of formate and TSP as concentration standards. NMR Biomed 5, 179-184.
  7. Sibson et al. 1997a. In vivo 13C NMR measurements of cerebral glutamine synthesis as evidence for glutamate-glutamine cycling. PNAS 94, 2699-2704.
  8. Cai et al. 2008a. Role of GPR81 in lactate-mediated reduction of adipose tissue. Biochem Biophys Res Commun 377, 987-991.