生物お勧め参考書: 日本語

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このページの最終更新日: 2024/05/16

  1. 生化学の本
  2. 神経科学の本
  3. 遺伝学の本
  4. 進化の本
  5. 老化の本
  6. 統計の本
  7. 数学・物理の本
  8. 辞書
  9. 理系漫画

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生化学の本

ストライヤー生化学

Berg, Tymoczko, Stryer の編集による生化学の教科書。 巻末の index 以外で約 1000 ページ。

正統派の教科書という感じで、基礎的な知識がややトップダウン的に網羅されている。その反面、個々の現象や分子に対して生理的な意義があまり述べられておらず、構造に偏っていて化学的要素が強い。この点、イラストレイテッド ハーパー・生化学 30版 の方が生物学寄りな印象がある。

英語圏ならば学部教育向けにはややレベルが高い印象。しかし、基本を外さずに専門分野以外のことを 研究レベルで 英語で読みたいという日本人には非常に適しているだろう。輪読とかにも向いているかもしれない。翻訳版はストライヤー生化学として売られている。


ハーパー生化学

ストライヤー生化学に比べるとかなり生物学的な教科書で、個人的にはこちらの方がわかりやすい。タンパク質の構造やエネルギー論などに深入りすることなく、タンパク質、糖、脂質などの代謝の概要を知りたいという人向け。化学ではなく医学、といってもいいかもしれない。

初版から 75 年という歴史をもち、常に改訂が加えられている。新しい版になるほど臨床に関連した記述が増え、また章末の問題が充実してきている。


リッピンコット 細胞分子生物学

リッピンコットシリーズの細胞生物学の教科書。232 ページと短く、内容も基礎的である。大学レベルの初級向けと言える。「細胞の分子生物学」を通読しようという気にはなかなかならないが、これなら 1 学期の授業で終わらせることができる。

章末に問題集がついている。また、教科書を購入すると The Point というウェブサイトへのアクセス権が与えられて、さらに問題や解説を参照することができるようになる。

検査値で読む人体

健康診断を受けると、結果だけでなくたくさんのデータが載った表を渡してもらえる。ヘマトクリット値、GOT、LDH、尿ビリルビンなど、聞いたことはあってもその意味を全て知っている人は少ないだろう。

この本は専門書ではないが、健康診断の結果を理解するのに十分な程度で、測定値のもつ意味を解説している。とくに尿と血液の章が素晴らしい。

さらに、こうした検査の「正常値」が平均値 ± 2 x 標準偏差 として定義されていることにも触れ、検査結果が「正常値」から外れている場合にどう解釈すればいいかが示されている。

神経科学の本

神経科学 - 脳の探求 -

イラスト、コラムが充実した神経科学の本。生化学の教科書に例えるなら、雰囲気としてはヴォートよりもハーパーの生化学に近い。

ニューロン、グリア、活動電位といった神経科学の基本から、精神疾患やシナプス際構築など、かなり specific な話題にまで展開している。動物の行動実験についても例がたくさん載っているが、あくまで神経科学に関係する範囲で扱われており、実験方法の詳細が載っているわけではない。

また、付録としてヒトの脳の詳しい図が載っているのも役に立つ。よく見る地図だけでなく、血管の分布や様々な断面が載っていて、構造を理解しやすい。

脳単

語源から覚える解剖学英単語集の第 3 段。

監修のことばにも書かれているが、脳は他の組織よりも構造が複雑である。それは、脳の領域が全体的に繋がっていて、区分がはっきりしていないためである。これに伴って用語にも混乱が生じており、たとえば脳幹 brain stem という単語が示す領域は文献によって異なっている (これもこの本に書かれていた)。したがって、良いアトラスを持っていることは脳について学習・研究するために非常に重要である。

この本は、ヒトの脳の様々な部位の名称が日本語と英語で対応づけて書かれていて、イラストも美しくわかりやすい。厚くはないが、 原著論文に出ている用語はほぼ網羅しているので、ぜひ手元に一冊置いておきたい本だ。


遺伝学の本

これだけは知っておきたい図解ジェネティクス

遺伝学 genetics は、メンデル遺伝から膨大な量の DNA 配列の解析までを含む「古くて新しい学問」である。

この本は、遺伝学の重要ポイントを 60 の質問にまとめ、それに答える形で解説している。高度なコンセプトも非常にわかりやすく解説されている 大変おすすめ の参考書。いくつか質問の例を挙げておく。

  • かつてタンパク質が遺伝物質だと考えられていた理由は
  • 劣性遺伝病の遺伝子はやがて消え去るのか
  • 系統樹の作成法はなぜそんなに多いのか
  • 細胞に多数存在するミトコンドリアは均一なのか
  • Ensembl と Entrez はどこが違うのか

進化の本

進化医学からわかる肥満・糖尿病・寿命

糖尿病、肥満、インスリン、進化などに興味のある人は読んでおくべき本。進化という観点からこれらを考察している。個人的には、とくに脂肪組織の進化に関する第 4 章がおもしろかった。たとえば以下のようなことが書かれている。

  • 脂肪の蓄積形態は、動物の体の複雑さとともに変化し、次第に専門的な脂肪細胞が現れてくる。
  • 酵母は細胞質に脂肪滴があり、線虫では消化管細胞や皮下に脂肪滴がある。
  • ショウジョウバエには脂肪体が存在する。これは TOLL receptor を発現し抗菌物質を産生する。哺乳類の脂肪組織がホルモンを分泌するのと似ている。

さらに、人種によるインスリン分泌量の違いなども紹介されている。この本を読めば、確実に肥満や糖尿病を違った視点から眺めることができるようになるだろう。

DNA 人類進化学

DNA 配列から人類の進化をわかりやすく説明した良書。著者は遺伝研の研究者で、用語の使い方などにも非常に配慮が見られ、読んでいて安心する。

1997 年の古い本なので、まず胎盤から ミトコンドリア を抽出、さらにそこから ミトコンドリア DNA を抽出して解析している。PCR 発明前の分子生物学の雰囲気も味わい深い。

  • 現生人類は単一起源、アフリカ由来。
  • 日本人は大きく 2 グループに分かれ、単純な縄文・弥生ではない。
  • アメリカ先住民は日本人の一部や東南アジアに近縁。D-loop 配列で 4 群に分かれ、少なくとも 4 回ベーリング海を超えてアメリカに渡ったと思われる。

へんないきもの

有名になってからずいぶん経ち、続編も何冊か出ているようだ。解説があまりに素人的で、生物学を学んでいる人には物足りないと思うが、載っている生き物はマイナーなもの揃い。

聞いたこともなかったのは、ムカデメリベ、笑顔の可愛いヒライソガニ、イシガキリュウグウウミウシ、2 m にも達するコウガイビル、寄生獣を彷彿とさせるボネリムシなどなど。

クマムシ、ハダカデバネズミなど、今では有名になった生き物を 2004 年に取り上げたという点では評価できるだろう。


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老化の本

生命の持ち時間は決まっているのか

生命を germ line と soma に分け、寿命を説明しようとする使い捨ての体理論 disposable soma theory に関する本。Kirkwood は多くの論文や総説を発表している一流の老化研究者でもある。

Germ line とは生殖細胞系列のことで、次の世代に伝える遺伝情報がこれらの細胞に保持されている。そのため、germ line cell には生物は多大なエネルギーを投資し、DNA が傷ついたりしないように配慮している。

一方、それ以外の体細胞 soma には不必要なエネルギーを投資しない。これらが古くなってきたら、新しい体に作り変えれば良いためである (繁殖活動)。Pierce の遺伝学 などでも取り上げられている、広く受け入れられた老化理論であり、その提唱者であるカークウッドが自ら平易な言葉でこのアイディアを説明した名著である。

老化はなぜ進むのか

遺伝子レベルで解明された巧妙なメカニズムというサブタイトルがついている。

老化の意義についてはかつてより論争があり、「老化は遺伝子によって積極的にプログラムされている」とするプログラム説と、「老化は活性酸素などによるエラーの蓄積が原因である」とするエラー説が提唱されていた。

現在では、「活性酸素によるダメージと、それに対する遺伝子レベルの防御があり、そのそのバランスが老化の進行速度を決定する」という考えが主流である。

本書では、テロメア、p53、カロリー制限などの効果が遺伝子レベルで、しかしわかりやすく解説されている。著者は解糖系の亢進による寿命制御についてのユニークな論文を発表しており、この話題が日本語で読めるのも本書のメリットの一つだろう。


Kindle 版あり

統計の本

臨床統計 まるごと図解

生存時間解析 について平易に書いた数少ない解説書。

統計のなかでも、生存時間解析はそれだけで 1 冊の本になるほど複雑なわりに、ANOVAや t 検定などと違い使用頻度が低いため、とっつきにくい検定である。

この本では、とくに Kalpan-Meier 生存曲線、Log-rank 検定、Cox 比例ハザードモデルを重点的に解説しているが、prospective study と retrospective study, 選択バイアス、プラセボなど、臨床統計実験で重要な概念についても詳しい説明がある。臨床でない、基礎生物学の実験ではあまり意識しない重要な点であるので押さえておきたい。

統計学入門

確率の基礎、確率分布、仮説検定、回帰などについてわかりやすく解説してある本である。

古い本であるが、レベルを落とさずに、わかりやすくかつバランスよく必要な内容を網羅しており、もっともお勧めの入門書 である。これを教科書にして一連の講義を受けることができる学生は幸せである。

付表として正規分布表、t 分布表、F 分布表がついており、これも意外と役に立つ。練習問題とその解答もついている。

数学・物理の本

無限論の教室

教科書というよりは科学読み物。今まで読んだ無限論の本で、文句無しに一番面白かった。

大学生の「僕」と「タカムラさん」が、2 人だけでタジマ先生の哲学のユーモラスな講義を受ける。アキレスと亀の話はどこがおかしいのか、という話から始まる。無限級数が収束することが解答になると思っていた人は、ここでまず大きな刺激を受けるだろう。話はそこから集合論、ラッセルのパラドックス、ゲーデルの不完全性定理へと続く。

たとえば「自然数」は「無限」に存在する。これを「そこにある完結した無限」として捉えるのではなく、0 に 1 を足していく規則として捉える 可能無限 の立場が本書の特徴。一方、「実数」も無限個存在するが、これは一つの規則で記述できるものではないようだ。最後の一文は、無限論の余韻を残しつつ情景を鮮やかに浮かび上がらせる美しい締めになっていると思う。Kindle 版あり

無限の不思議

物語、日常生活の中に潜む「無限」を考えるため、ネズミ講や千一夜物語などが語られているが、作者のエッセイというかウンチク語りの域を出ず、あまり面白くない。科学的な考察を読みたい場合には、あまりふさわしくない本だろう。

そんな中にも数学的な解説を入れている章があって、それらの章はそこそこ面白い。1 = 0.9999999... は正しいか? 微分・積分の基本的考え方などが述べられている。

エントロピーとは何か - でたらめの効用

小さい頃に読んだ本だが、エントロピーという言葉に生化学で出会ってから再読。いま読んでみると、エントロピーが log で表されるのか、なぜボルツマン定数の次元が「エルグ/度」という見慣れないものなのか、など、基礎的な部分に十分にページを割いてあってわかりやすい。

マックスウェルの悪魔がなぜ成り立たないのかについても説明あり。熱力学だけでなく、情報理論の面からもエントロピーについて考えているのが特徴で、とくに確率に従って英語の文字列を作ってみる シャノンの実験 の話は面白い。iPhone の単語の予測変換は、この規則に基づいているのかもしれない。

辞書

岩波 理化学辞典 第 5 版

このサイトでは、私が持っている 1987 年の第 4 版を引用していることが多い。1998 年に第 5 版が発行されている。

ネット情報の問題点の一つは、信頼できる定義になかなか出会えないことである。Wikipedia には定義らしいことが書いてあり、普段の調べ物には十分なことも多いが、正式な資料を作るときにはその引用は避けたいものである。

そんなときに役に立つのが理化学辞典や生化学辞典。中古でも古い版でもよいので、とにかく 1 冊持っておくと仕事がはかどる。


理系漫画

中学、高校レベルで、周期表といくつかの元素について漫画で学べる本。

酸素、窒素、炭素などの馴染み深い元素については、とくに目新しいことは書かれていないが、金、銀、アルミニウムなどはけっこう知らなかった知識が載っている。

空き時間に漫画を読むなら、普通のコミックだけでなくて、必ずしも研究に必要としない知識をこういう形で補充できる漫画も良いものだ。

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