環状構造をもつ helix breaker プロリン:
構造、機能、代謝など
広告
概要: Pro とは
プロリン (proline, Pro, P) は図 (Public domain) のような構造をもつ分子である。アミノ基 NH2 をもたないため、厳密にはアミノ酸ではないが、通常はタンパク質 protein を構成する 20 種のアミノ酸の一つと分類される。
Pro は、以下の図 (Public domain) のように、-COOH に五員環がついた構造とも見ることができる。この環はピロリジンと呼ばれる構造であるため、プロリンの系統名はピロリジン-2-カルボン酸 pyrrolidine-2-carboxylic acid である。
Pro の生理機能・生化学的特徴
プロリンには、以下のような特徴がある (2,3)。
- アルギニン 生合成の原料である。アルギニンは 尿素回路 で重要なので、Pro 摂取は正常な窒素代謝を維持するために重要である。
- 活性酸素種 ROS を除去する抗酸化物質として働く。
- TOR を活性化する。
- ヒドロキシプロリン hydroxyproline は、コラーゲン の重要な構成要素である。
- 環状構造がタンパク質の構造に大きく影響する。例えば、Pro が含まれていると α-helix 構造が不安定になる。多くはタンパク質表面に局在する。
最後の項目を具体的に述べると、次のようになる (3)。
プロリンがペプチド結合を形成すると、その α-アミノ基側ではピロリジン環が隣のアミノ酸の自由度を束縛し、ペプチド結合がシス-トランス異性化する。これによって、α-helix や β-sheet 構造が Pro のところで途切れてしまう。
文献 3 は、相互作用する 2 つのタンパク質で、プロリンが相互作用部位の両側に存在している確率が高いことを示した論文を紹介しており、プロリンによって作り出されるタンパク質のねじれなどの構造が、相互作用部位を露出した形で安定させるのではないかと考察している。
Pro の生合成
哺乳類では、プロリンは主に小腸および肝臓で合成される。合成経路は、組織によって異なっている。
肝臓での Pro の生合成
肝臓には尿素経路があり、Pro は尿素経路の中間体であるオルニチン ornitine から生合成される。オルニチン-オキソ酸アミノトランスフェラーゼ (EC 2.6.1.13) およびピロリン-5-カルボン酸レダクターゼ (EC 1.5.1.2) に触媒されるが、両酵素による反応の間に、非酵素的に進む側鎖の閉環反応が含まれる。
小腸での Pro の生合成
小腸では、まずグルタミンまたはグルタミン酸からオルニチンが合成される。以降の反応は、肝臓における生合成と同じである。
Pro の分解
Pro は分解時に直接グルタミン酸に変換されるタイプのアミノ酸である (Pro, His, Gln, Arg)。グルタミン酸の窒素原子は NH4+ を経て尿素 urea となって排出される。
ヒドロキシプロリン
ヒドロキシプロリンは、以下のようにコラーゲンにヒドロキシ基 -OH が付加された構造をもつ分子である (図、Public domain)。コラーゲンに含まれ、コラーゲンの三本鎖らせん構造 triple-helix structure を安定化する機能がある。
コラーゲン以外のタンパク質には滅多に見られないが、エラスチン elastin や珪藻の細胞壁にも含まれている。
プロリンヒドロキシラーぜという酵素によって合成されるが、この反応にはアルコルビン酸 (ビタミン C) が必要である。ビタミン C 不足による壊血病は、ヒドロキシプロリン不足によるコラーゲン安定性の低下が原因である。
広告
References
- Amazon link: ストライヤー生化学: 使っているのは英語の 6 版ですが、日本語の 7 版を紹介しています。参考書のページ にレビューがあります。
Wu et al. 2008a. Proline and hydroxyproline metabolism: implications for animal and human nutrition. Amino Acids 40, 1053-1063.村本, 1995a. プロリンはタンパク質間相互作用の名脇役か. 化学と生物 34, 18183-184.
コメント欄
サーバー移転のため、コメント欄は一時閉鎖中です。サイドバーから「管理人への質問」へどうぞ。