親の状態が子供に及ぼす影響

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6-29-2017 updated


  1. 概要

  2. 親の栄養状態の影響
    • 親が貧栄養の場合
    • 親が肥満の場合

  3. 親の年齢の影響
    • ヒト
    • マウス
    • ショウジョウバエ
    • 線虫
    • その他の動物

関連ページ


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概要

このページでは現象論について述べる。メカニズムはまだ整理中。とりあえず以下の関連ページがある。


全体的に、親の因子は栄養状態、出生時の年齢に着目した研究が多く、子供での測定項目は、病気のリスクと寿命が多い。

親の状態については、parental age, maternal age, paternal age に分けて考えていく必要がある。一般には 細胞質を提供する maternal の影響が大きいと言う報告が多いようであるが、DNA に入る変異という意味では精子の方が細胞分裂するため、父親の影響の方が大きいという説もある。


親の栄養状態の影響

親の影響状態は、ざっくり言うと以下のようなパターンで子供に影響する。

  • 親が貧栄養だと、子供は肥満傾向を示す。
  • しかし、親が肥満の場合にも、子供は肥満傾向を示す。

カロリー制限 は、原則として栄養状態を改善し、老化を遅らせる作用があるため、親が肥満の場合に子供の健康状態を改善することができそうに思える。しかし、妊娠中は栄養状態に sensitive な期間であり、ちょうどいい栄養状態を達成するのは難しい。そのため、実際の成功例は少ないようである。詳細は 親のカロリー制限 のページへ。


親が貧栄養の場合

一般に 親の栄養状態が悪いと子供は肥満 obesity になりやすい (9D)。エネルギーをあまり消費せずに、蓄えるようにプログラムされてしまうと考えられる。あまり一般的な言葉ではないが、このアイデアは thrifty phenotype hypothesis とも呼ばれる。


> Metabolic state が遺伝するという報告をまとめたレビュー (13)。
  • 第二次世界大戦中、ドイツに占領されたオランダで妊娠中に飢餓を経験した母親の追跡調査。子供は肥満、糖尿病、cardiac disorder のリスクが高い。
  • マウスでも、low protein diet や貧栄養で飼育すると、子供の肥満、糖尿病などのリスクが高くなる。これは血中 TAG、血中 脂肪酸、DNA メチル化などと相関している。PPARα、グルココルチコイド受容体の発現が変化しているという報告も。
  • Drosophila でも、親の食事が子供の代謝に影響するという論文がある。Hish sugar diet で、子供の TAG やトレハロース量が増える。

> 妊娠前の BMI と子供の体重、肥満などの関係を調べたメタ・アナリシス (12)。
  • 1970-2012 年、中国のデータベース。665 の文献を調べ、高品質な 45 の論文を対象とした。
  • Normal weight の母親に比べ、underweight の場合は妊娠期間が短く、出生児体重が低かった。
  • Normal weight の母親に比べ、overweight/obesity の場合は妊娠期間が長く、出生児体重が高く、巨人症 macrosomia および子供が overweight/obesity になるリスクが高かった。

> 妊娠前の栄養状態の影響を、マウス F1 および F2 の 2 世代で調べた論文 (9)。
  • 妊娠前の 50% カロリー制限は、F2 の体重を増やし、寿命を短くする。
  • 親が妊娠時に catch-up しているのでは? 妊娠時の栄養過剰の影響をみているとは考えられないか?

> タンパク質制限された親をもつマウスは小さく、授乳に catch-up する (5I, 5R)。
  • 出生後にタンパク質制限した postnatal low protein (PLP) mice と catch-up した R mice を使った論文。
  • PLP mice は長寿である。一般に R mice の寿命は短くなる。Developmental origin of health という概念である。
  • PLP mice は 膵臓、脾臓、腎臓、肝臓、心臓などが小さいが、R mice ではむしろ大きい。
  • PLP mice は fasting glucose, fasting insulin 量が対照群より低いが、R mice は対照群と変わらない。
  • R mice では PKC, IGFIR, IRS1, p85, p110 などインスリン系のタンパク質量が低下する。
  • PLP mice でもやや低下するが、R mice の方が consistent に下がっている感じ。
  • Sirt1 は PLP mice で対照群と変わらず、R mice で低い。

親が肥満の場合

> へその緒の上皮細胞を使い、親の肥満と子供の遺伝子発現を関連づけた論文 (14)。
  • ミトコンドリアと脂質代謝遺伝子の発現低下が著しい。
  • パルミチン酸、ステアリン酸、Omega-6 脂肪酸などの血中量と相関。脂質がメッセンジャーとして働いている可能性。

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親の年齢の影響 (Lansing effect)

一般に、親の年齢が高いと子供の寿命が短くなることが古くから知られている (1I)。これは ランシング効果 Lansing effect と呼ばれる。メカニズムは不明な点が多く残されている。


ヒト

> 母親の年齢が高いほど、子供の寿命が短くなることが一般に認められている。
  • 若い母の子供は寿命が長いことを示した 1918 年の Bell の大規模調査が有名である (1I)。
  • その後、ワムシという動物で Lansing が発表した論文が有名で、ランシング効果という名前がこの現象につけられている (8)。
  • 18 世紀のデータセットを遡って解析しても、母親の年齢および母親の寿命が、子供の寿命に有意に影響している (12)。約 30,000 の人口学データから解析。父親の寿命、年齢とは相関が

> 親の年齢が高いと子供の知性が上がるという概念は 1900 年代初頭からあった (8)。
  • Socioeconomic reason は大きな要因である。高齢な親は経済的な余裕があり、よい教育を受けさせられる。
  • ただし、親の年齢と子供の知性は U shape の関係という報告もあり、生物学的要因も提唱されている。
  • 精子の DNA integrity が高齢の父親では高いという報告があるようだ (Sartorius, 2010)。

> 親の年齢に伴って、様々な病気のリスクが上がる。
  • ダウン症 down syndrome の確率は 20 歳の親で 1/2300 だが、45 歳の親では 1/45 である (8)。
  • 統合失調症 schizophrenia や自閉症 autism のリスクも上がる (8)。
  • Cleft lip, without cleft palate など、奇形のリスクも上がる (8)。

> 親の年齢が高いと、子供のガンのリスクが増大する (11R, 11D)。
  • 親の年齢が高いと Non-Hodgkin lymphoma のリスクが上がる。Myeloid leukemia および multiple myeloma のリスクとは相関しない。
  • 乳がん および前立腺ガンに関する知見が多い。

マウス

> マウスでも、老化した母から産まれた子は寿命が短いことが報告されている (7)。
  • 近親交配による悪影響が出ないように、異なる系統のF1を使い、F2の寿命を調べている。
  • 老化した母から産まれた子では、オスの比率が低く、寿命が短く、かつ体重が少ない。
  • 性比への影響は種ごとに異なっており、一定の傾向はないと書いてある。ヒトでは老母 → オスが少なくなる。

ショウジョウバエ

> ショウジョウバエでは、父母の年齢が両方とも影響し、母の影響の方が大きい (1)。
  • Maternal age effect は、最大で 26% の寿命の短縮をもたらす。

線虫

> 親の年齢が高いほど、子の平均寿命が短くなる (3)。影響は小さいが有意。
> 親世代でクロマチン構造が変わると、子世代の寿命が変化する (4)。
  • H3K4me3 regulatory complex: ASH-2, WDR-5, SET-2 から成り、欠乏すると寿命が延長する。
  • これは ヒストン のメチル化に関わる複合体で、酵母からヒトまで保存されている。
  • 親世代で WDR-5, ASH-2, SET-2 のいずれかを欠損またはノックダウンすると 、次世代の寿命が延長する。
  • 世代をまたぐ効果は、全般に数世代程度であった。
  • 世代をまたぐ効果は RBR-2-dependentであり、functional adult germline が必要であった。

その他の動物

> カイアシ類では、老化した母の子供はタンパク質のカルボニル化が進んでいる (2)。
  • Acartia tonsa という生物に関する論文。寿命の変化には、活性酸素が影響していると思われる。

> 野生のシジュウカラでは、寿命と total fitness に親の年齢は影響しない (6)。
  • ただし、老化した親から生まれた子供は老化が早く、産仔数の減少も早期からみられる。
  • Lifetime reproductive succes には親の年齢の影響はみられない。理由はよくわからない。
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References

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  1. Priest et al. 2002a. The role of parental age effect on the evolution of aging. Evolution 56, 927-935.
  2. Rodriguez-Grana et al. 2010a. Gender-specific ageing and non-Mendelian inheritance of oxidative damage in marine copepods. Mar Ecol Prog Ser 401, 1-13.
  3. Klass 1977a. Aging in the nematode Caenorhabditis elegans: major biological and environmental factors influencing life span. Mech Ageing Dev 6, 413-429.
  4. Greer et al. 2011a. Transgenerational epigenetic inheritance of longevity in Caenorhabditis elegans. Nature 479, 365-371.
  5. Chen et al. 2009a. Maternal protein restriction affects postnatal growth and the expression of key protein involved in lifespan regulation in mice. PLoS ONE 4, e4950.
  6. Bouwhuis et al. 2009a.Trans-generational effects on ageing in a wild bird population. J Evol Biol 23, 636-642.
  7. Tarin et al. 2005a. Delayed motherhood decreases life expectancy of mouse offspring. Biol Reprod 72, 1336-1343.
  8. Liu et al. 2011a (Review). Parental age and characteristics of the offspring. Ageing Res Rev 10, 115-123.
  9. Araminaite et al. 2014a. Maternal Caloric Restriction prior to Pregnancy Increases the Body Weight of the Second-Generation Male Offspring and Shortens Their Longevity in Rats. Tohoku J Exp Med 234, 41-50.

  1. Lu et al. 2010a. Parents’ ages at birth and risk of adult-onset hematologic malignancies among female teachers in California. Am J Epidemiol 171, 1262-1269.
  2. Yu et al. 2013a. Pre-pregnancy body mass index in relation to infant birth weight and offspring overweight/obesity: a systematic review and meta-analysis. PLoS ONE 8, e61627.
  3. Somer et al. 2014a. Epigenetic inheritance of metabolic state. Curr Opin Genet Dev, 27, 43-47.
  4. Costa et al. 2016a. Maternal obesity programs mitochondrial and lipid metabolism gene expression in infant umbilical vein endothelial cells. Inj J Obesity 40, 1627-1634.