アミロイド β: アルツハイマー患者の脳に蓄積するペプチド

protein_gene/a/amyloid_b
4-3-2017 updated

  1. 概要: 前駆体 APP の機能
  2. APP からアミロイド β が生じる機構
  3. アミロイド β とアルツハイマー病

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概要: 前駆体 APP の機能

アルツハイマー病 の患者の脳には、アミロイドβ (Aβ) という約 40 残基のペプチドが蓄積する。アルツハイマー病の原因として長い間研究されてきた。このページでは、Aβ およびその前駆体である アミロイド β 前駆体タンパク質 (APP; amyloid beta precursor protein) についてまとめる。


まず APP の機能について述べる。

APP は Aβ 産生以外に本来の機能をもっているが、本来の機能はそれほど詳しくわかっているわけではない。多くの場合、分解されてそれぞれの断片が機能することも、このタンパク質の役割を複雑にしている要因である (7)。

このページで述べるように、アルツハイマー病と関係が深い 3 つのタンパク質

  1. プレセニリン
  2. ApoE
  3. Tau

は、いずれも APP の切断またはクリアランスに関わる分子である。


> APP は受容体で、G-protein を介したシグナル伝達を仲介する (7)。
  • ヘパリン、ラミニンなど細胞外分子と結合する。細胞接着に機能しているかもしれない。

> 過剰発現およびノックアウトにより、記憶などに重要であることがわかっている。
  • APP KO mice show deficits in structure and function in neuromuscular synapses (4).
  • APP transgenic mice は、シナプス可塑性や記憶力が上昇する (4).

APP からアミロイド β が生じる機構

図は文献 4 から転載。


  1. APP は細胞膜貫通型の糖タンパク質で、プロテアーゼによる分解を受ける。
  2. 分解は α 経路と β 経路に分けられ、β 経路が amyloid β を生み出す経路である。
  3. β経路では、β-セクレターゼによって APP が切られ、C 末端側の 99 アミノ酸から成る断片 C99 が膜に残る。
  4. C99 は γ-セクレターゼによって 38 - 43 アミノ酸のペプチドになり、N 末端側の Aβ が細胞外へ分泌される。
  5. 残りの部分は AICD (APP intracellular C-terminal domain ) と呼ばれ、核へ移行して neprilysin の転写を促進。
  6. 通常、γ-secretase は40アミノ酸から成る Aβ40 を生み出すが、同時に毒性の高い Aβ42 も作る。

家族性アルツハイマー病の原因として知られるプレセニリン precenilin は、APP を切断するセクレターゼの構成因子である。変異が切断パターンの違いをもたらすものと推察される。


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アミロイド β とアルツハイマー病

APP がアルツハイマー病の原因であることの最も有力な証拠は、この遺伝子の変異で AD が生じやすいことである (4)。しかし、Aβ の蓄積が具体的にどのように AD の症状を生み出すのかについては未だ不明な点が多い。

  • AD と関連した 32 の変異がみつかっており、多くが Aβ42 を生じやすい位置に入っている。
  • Aβ の量と認知症の程度については、相関する/しないの両方の報告がある (1)。

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References

  1. Tiiman 2013a (Review). The missing link in the amyloid cascade of Alzheimer’s diseare - metal ions Neurochem Int 62, 367-378.
  2. Gotz 2008a (Review). Animal models of Alzheimer's disease and frontotemporal dimentia. Nat Rev Neurosci 9, 532-544.
  3. Kashiwaya 2000a. D-β-hydroxybutyrate protects neurons in models of Alzheimer's and Parkinson's disease. PNAS 97, 5440-5444.
  4. Dong et al. 2012a (Review). Advances in the pathogenesis of Alzheimer's disease: a re-evaluation of amyloid cascade hypothesis. Transl Neurodegener 1, 18.
  5. Pittsburgh Compound-B を用いたPETによるアルツハイマー型認知症研究. Link.
  6. Poeggeler et al. 2005a. Mitochondrial medicine: neuroprotection and life extension by the new amphiphilic nitrone LPBNAH1 acting as a highly potent antioxidant agent. J Neurochem 95, 962-973.
  7. アミロイド β 前駆体タンパク質. PDBj 今月の分子. Link.