シナプス

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このページの最終更新日: 2024/02/14

  1. 概要: シナプスとは
  2. シナプス伝達のメカニズム
  3. 化学シナプスでみられる神経伝達

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概要: シナプスとは

シナプス synapse とは、神経細胞 neuron の間、またはニューロンと他の細胞の間に形成される接合部位のことである (4)。このページでは、ニューロン同士が形成する化学シナプスについて解説する。

シナプスでは、一般に情報はニューロンから標的細胞へと一方向に流れる。そのため、上流のニューロンを presynaptic、標的細胞を postsynaptic と表現する。ニューロンには軸索 axon、樹状突起 dendrite、細胞体 cell body があるので、その組み合わせによってシナプスには以下のように色々な種類がある (4)。

  • 軸索-樹状突起シナプス axodendritic synapse
  • 軸索-細胞体シナプス axosomatic synapse
  • 軸索-軸索シナプス axoaxonic synapse
  • 樹状突起-樹状突起シナプス dendrodendritic synapse

また、シナプスは前膜と後膜の厚さの比から、機能を推定することができる。

  • 後膜が前膜よりも厚いシナプスは Gray I 型シナプス Gray's type I synapse と呼ばれ、一般に興奮性である。
  • 両者が同程度の厚さであるシナプスは、Gray II 型シナプス Gray's type II synapse と呼ばれ、一般に抑制性である。

シナプス前膜とシナプス後膜の間には、20 - 50 nm のシナプス間隙 synaptic cleft がある(4)。シナプス前膜の付近には、神経伝達物質を含むシナプス小胞 synaptic vesicle が多数存在する。

シナプス伝達のメカニズム

図は Wikipedia「シナプス」より (5)。

  1. シナプス前ニューロン presynaptic neuron に活動電位が生じると、電位依存性カルシウムイオンチャネル VDCC が開く。
  2. Ca2+ の流入によって、神経伝達物質がエキソサイトーシスでシナプス間隙 synaptic cleft に放出される。
  3. 神経伝達物質は、シナプス後ニューロン postsynaptic neuron のシナプス後膜 postsynaptic membrame(図のB)にある受容体(図の5)に結合する。
  4. 受容体の種類に応じて、Na+ やClなどのイオンが流入する。
  5. Na+ が流入した場合は、電位依存性ナトリウムチャネル VGSC が開いてさらに Na+が流入する(活動電位の発生、1 に戻る)。
  6. 神経伝達物質は、主にアストロサイト astrocyte に取り込まれる。

A: シナプス前ニューロン presynaptic neuron
B: シナプス後ニューロン postsynaptic neuron
1: ミトコンドリア
2: 神経伝達物質を含む小胞
3: 自己受容体 autoreceptor
4: シナプス間隙 synaptic cleft
5: シナプス後膜 postsynaptic membrane 上の神経伝達物質の受容体
6: 電位依存性カルシウムチャネル VDCC
7: シナプス小胞から神経伝達物質が放出されている
8: 神経伝達物質の自己回収

化学シナプスのほかに、presynaptic cell と postsynaptic cell が繋がっていて、イオンが直接流れるような電気シナプス electric synapse もある。

 

電気シナプスでは、細胞同士が gap junction によって繋がっていて、その間はわずか 3 nm 程度しか離れていない(4)。コネキシン connexin というタンパク質が橋渡しをしており、6 個の connexin が結合して作るチャネルはコネクソン connexon と呼ばれる。

 

> イオンが直接移動するので、化学シナプスに比べて伝達が早い(4)。

: ザリガニでは、感覚ニューロンと運動ニューロンの間によくみられ、逃避反射を仲介する。

: 脊椎動物の脳にも存在する。

 

> 構造上、化学シナプスと違って情報の逆流がありえる(4)。

 

 

化学シナプスでみられる神経伝達

1. Presynaptic cell 内の活動電位の発生

Presynaptic cell の活動電位が上がる要因としては、以下のようなものが考えられる。活動電位については、跳躍電動 saltatory conduction で説明しているので参照のこと。

他の神経から、興奮性のシナプス伝達を受ける。

2. Presynaptic cell 内の小胞輸送

活動電位によってシナプス前膜が脱分極すると、活性帯にある電位依存性カルシウムチャネル VDCC が開く。

神経細胞内のカルシウム濃度は約 0.0002 mM と非常に低い(4)。そのため、濃度勾配によって VDCC が開いている間中、Ca2+ は細胞内に流入し続ける。細胞内 Ca2+ 濃度の上昇が、神経伝達物質を小胞から放出させるシグナルとして働く。

Ca2+ が神経伝達物質を放出させる正確な機序は、まだよく分かっていない(4)。しかし、少なくともエキソサイトーシス exocytosis による放出であり、放出に必要な時間の短さから、小胞は既に膜に接着していると考えられている。

シナプス小胞 synaptic vesicle の中に、神経伝達物質が格納されている。Glu を小胞内に格納するのは、vesicular H+-ATPase である(1)。

一つの小胞内には、約 4000 個のグルタミン酸 Glu が含まれると考えられている(1)。小胞の直径は約 50 nm であり、シナプス間隙と同じぐらいのサイズである(4)。

神経伝達物質の放出は、イカの軸索では Ca2+ が流入してから 0.2 ミリ秒以内に起こる(4)。哺乳類では、一般に体温が高いのでさらに早く放出が起こる。

パルブアルブミン parvalbumin は特定の介在ニューロンに発現する Ca2+ 結合タンパク質である。細胞内に流入した Ca2+ と結合して、有効な Ca2+ 濃度を下げる機能がある。

水溶性タンパク質を含む直径約 100 nm の分泌顆粒 secretory granule もある(4)。ペプチドの神経伝達物質を貯蔵、放出する。これらの放出にかかる時間は、50 ms 以上とゆっくりである。


3. Postsynaptic membrane 上の受容体への神経伝達物質の結合

神経伝達物質は、シナプス後ニューロン postsynaptic neuron のシナプス後膜 postsynaptic membrane にある受容体に結合する。受容体には、神経伝達物質の種類によって様々な種類があるが、伝達物質作動性イオンチャネル transmitter-gated ion channel と Gタンパク質共益型受容体 G protein-coupled receptor (GPCR) に大別される(4)。

シナプス前ニューロンにも、自己受容体 autoreceptor という神経伝達物質受容体がある場合も(4)。一般的には、自己受容体は GPCR である。原則として、negative feedback により神経伝達物質の放出を減らす機能をもっている。


4. Postsynaptic cell 内の活動電位の発生

神経細胞の静止膜電位は、約 -70 mV である。この状態では電位依存性ナトリウムチャネル VGSC は閉じており、resting state にある(2)。

一度活動電位が発生すると、VGSC は数百 ms で開口し(open state)、大きなNa+ influx を生み出す。これは脱分極 depolarization とも呼ばれる。

脱分極が起こると、数 ms の間に VGSC は inactivated state になり、Na+ influxが停止する(3)。

その後、膜電位が静止状態の電位に戻ると VGSC は再び resting state になり、次の発火に備える。

様々なVGSC blockerが知られているが、これらは channel state に応じた結合様式の変化を示す(2)。


5. 神経伝達物質の回収

放出された神経伝達物質が、シナプス後膜上の受容体に結合してシグナルを伝えた後には、次のシナプス伝達が可能になるように、伝達物質がシナプス間隙から取り除かれる必要がある。

単純拡散 シナプス前の軸索終末への取り込み; transporter による シナプス周辺のグリア細胞への取り込み; これも transporter による シナプス間隙での酵素分解; アセチルコリンの分解が有名 グルタミン-グルタミン酸サイクル

グルタミン酸作動性ニューロンは、脳神経の約90%を占める主要なニューロンである。したがって、グルタミン酸 Glu は、脳内で用いられている主要な神経伝達物質と言える。

Glu がシナプス間隙に留まっているとニューロンが興奮しっ放しになってしまうので、Glu は速やかにアストロサイト astrocyte に取り込まれる。

アストロサイト内では、Glu はグルタミン合成酵素によってグルタミン Gln に変換される。グルタミンはアストロサイトから放出される。ニューロンはこれを取り込んで Glu に変換し再利用する。

アストロサイトは Glu を3分子のNa+, 1分子のH+とともに取り込み、1分子のK+を放出する(1)。

  • 取り込まれた Glu の1/3が Gln に変換される。このとき、Glu 1分子あたり1分子のATPが必要(1)。
  • 1/4 は Glu のまま残る。または、GlnからGluに再変換される。
  • 1/5 は Glu dehydrogenase によって TCA回路の中間体 α-ケトグルタル酸になる。
  • 1/5 はおそらくアスパラギン酸に変換される。

Gln がアストロサイトから放出される際は、おそらく system N-like transporter を通っている(1)。ニューロンに入るときも同様である。これは1分子のNa+を同時に輸送し、代わりに1分子のH+を放出する。ATPは使わない。


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References

  1. Attwell and Laughlin 2001a (Review). An energy budget for signaling in the gray matter of the brain. J Cereb Blood Flow Metab 21, 1133-1145.
  2. Ragsdale et al. 1994a. Molecular determinants of state-dependent block of Na+ channels by local anesthetics. Science 265, 1724-1728.
  3. Shah et al. 2010a. Voltage gated sodium channel blockers: potential treatment for neuropathic pain. CRIPS 11, 11-16.
  4. ベアーほか 2007a (Book). 神経科学 脳の探求. 西村書店.
  5. Celio 1986a. Parvalbumin in most gamma-aminobutyric acid-containing neurons of the rat cerebral cortex. Science 231, 995-997.
  6. vectorization: Mouagip (talk)Synapse_diag1.png: Drawn by fr:Utilisateur:DakeCorrections of original PNG by en:User:NretsこのW3C-unspecified ベクター画像はAdobe Illustratorで作成されました。 - Synapse_diag1.png, CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=11438067による

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