NMR による N-アセチルアスパラギン酸 (NAA) の検出

aa_carbo_lipid/aa/nmr_naa
3-27-2017 updated

  1. 概要: ラット脳の 1H NMR
  2. 脳における NAA の機能
  3. MRS における使い方
  4. 脳内の NAA の分布

広告

概要: セリンとは

N-アセチルアスパラギン酸 NAA は、図 1 のようにアスパラギン酸 Asp の窒素にアセチル基 COCH3 が付加された物質である。COOH の H は生理的 pH で電離して COO- となっており、NMR では検出されない。

図 1. NAA の構造

アセチル基の CH3 が非常に明瞭な 2.01 ppm のシグナルを与える。CH, CH2 のプロトンは doublet of doublet であまりはっきりせず、また NH のプロトンは水と exchangable であるため、温度依存的なブロードなピークを与える (2)。

Group Shift in H2O (ppm) Shift in D2O (ppm) Multiplicity J (Hz) Ref
Acetyl moiety 2CH3 2.0080 2.0050 Singlet None 1
Aspartate moiety 2CH 4.3817 4.3823 Double doublet 3.861 1
Aspartate moiety 3CH2 2.6727, 2.4863 2.6759, 2.4866 Double doublet 9.821, -15.592 1
Aspartate moiety NH 7.8205 7.8155 Doublet 6.400 1

下の図は、ラット rat の脳抽出物の 1H-NMR spectrum (全体像) である。2 ppm 付近に NAAのピークをはっきりと見ることができる。

図 2. ラット脳抽出物のH-NMR

NAA 付近を拡大すると、図 3 のようになる。Echo time が短いときには、Glu や macromolecule のピークと重なるので注意が必要である (2)。

また、通常は NAAG のピークを含んでいる (2)。

図 3. NAA のピーク

脳における NAA の機能

> 基本的に、生理機能は不明である とされることが多い (2)。

: 浸透圧調節、神経伝達物質 NAAG の分解産物。
: 脂肪酸およびミエリン鞘の合成 (アセチル基の buffering)。
: ターンオーバーは約 14 時間と遅いため、積極的にグルコース代謝に関わっているわけではなさそう。
: 脳の窒素バランスを保つ働き (3)。


MRS における使い方: 主に 2 通り

神経細胞密度マーカー

NMR および MRS では、NAA のピーク面積は 神経細胞密度のマーカーとなる (2)。

> Neuronal loss を伴う病気で、NAA 量が低下することが報告されている (2)。

: ただし、NAA 含量は神経細胞の種類によって異なる。
: かつ immature oligodendrocytes など、神経以外の細胞にも存在するために注意が必要。

> NAA 量は、neuronal loss ではなく neuronal dysfunction を反映しているかもしれない (2)。

: Incomplete reversible ischemia, brain injury で NAA 量が低下する。
: Neuronal loss を伴わない神経変性疾患でも NAA 量が低下する。
: 唯一、NAA 量が増えることが知られている神経変性疾患は、Canavan's syndrome である。

内部標準

虚血 ischemia などの acute metabolic disturbance に対して比較的濃度が変わりにくいために、内部標準として用いられることもある (2)。しかし、分布の項でみるように濃度は均一でないという欠点がある。

脳内の NAA の分布

NAA は、中枢および末梢神経系にのみ存在する (2)。ニューロンのミトコンドリアで合成され、axon に沿って輸送されるため、gray matter にも white matter にも分布する (3)。

Immature oligodendrocyte, astrocyte progenitor cells にも存在するが、主としてニューロンに分布する (3)。

> 濃度は、部位や発生過程で大きく変動する (2)。

: ラットでは、誕生時には < 1 mM だが、成体では 5 mM 以上になる。
: Gray matter で 8 - 11 mM, white matter で 6 - 9 mM と前者でやや高い。

コメント欄

サーバー移転のため、コメント欄は一時閉鎖中です。サイドバーから「管理人への質問」へどうぞ。

References

  1. Govindaraju et al. 2000a.Proton NMR chemical shifts and coupling constants for brain metabolites. NMR Biomed 13, 129-153.
  2. de Graaf 2007a (Book). In vivo NMR spectroscopy 2nd ed. John Wiley & Sons, Ltd.
  3. Bulik et al. 2013a (Review). Potential of MR spectroscopy for assessment of glioma grading. Clin Neurol Neurosurg 115, 146-153.