ピルビン酸の構造、機能、代謝: 解糖系の最終産物

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2018/02/27 更新

  1. 概要: ピルビン酸とは
    • ピルビン酸代謝に関わる酵素
  2. ピルビン酸代謝の概要とそれを調べる実験法
  3. ピルビン酸からのアセチル CoA 生成
  4. ピルビン酸からの乳酸生成
  5. ピルビン酸リサイクリング

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概要: ピルビン酸とは

ピルビン酸は、以下のような構造をもつ有機酸である。C, H, O の基本的な組み合わせである CH3、, C=O, COOH からできていると覚えよう。英語では pyruvic acid という。

イオンになったものが pyruvate [pʌiruːveit] である。ru にアクセントがある。日本語ではあまり区別されず、理化学辞典 (6) のピルビン酸の項目にも 「解糖系とトリカルボン酸サイクルを結ぶ重要な中間生成物である」 と書かれている。

しかし、ピルビン酸の pKa は 2.5 と低い。つまり生理的条件下では陰イオンとして存在するため、pyruvate という言葉の方が生化学分野ではよく使われる。図では左がピルビン酸、右が pyruvate。


ピルビン酸は、以下のような生化学的に重要な性質をもつ。

  • 解糖系 glycolysis の最終産物。大きく分けて、以下の 4 通りの経路で代謝される。
    1. 好気的条件下では、アセチル CoA として TCA 回路 に入る。
    2. オキサロ酢酸として TCA 回路 に入る。これは TCA 回路の中間体を補充するための重要な反応で、補充反応 anaplerosis と呼ばれる。
    3. 嫌気的条件下では乳酸 lactate になる (乳酸発酵)。
    4. バクテリアなどでは、脱炭酸を受けてアセトアルデヒドになったあと、エタノール になる (アルコール発酵)。


ピルビン酸代謝に関わる酵素

ピルビン酸およびホスホエノールピルビン酸 PEP の代謝に関わる酵素を整理する。逆反応がある場合とない場合、迂回経路などがあり複雑である。

PDH

ピルビン酸デヒドロゲナーゼ。好気的条件下で アセチル CoA として TCA 回路に入れる反応。

PC

ピルビン酸カルボキシラーゼ。オキサロ酢酸 oxaloacetate にして TCA 回路に入れる補充反応 anaplerosis。

PDC

ピルビン酸からアセトアルデヒドを作る。アルコール発酵では、アセトアルデヒドがさらにアルコールデヒドロゲナーゼ ADH によってエタノールになる。

PK

ピルビン酸キナーゼ。解糖系の最終段階で、ホスホエノールピルビン酸 PEP からピルビン酸を合成する。名前は「キナーゼ」だが、解糖では逆反応なので注意すること。

LDH

乳酸デヒドロゲナーゼ。嫌気的条件下でピルビン酸を乳酸 lactate にする反応。


ピルビン酸からのアセチル CoA 合成

解糖系 glycolysis は細胞質に存在する。これによって生じたピルビン酸 pyruvate はミトコンドリアに輸送され、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体 pyruvate dehydrogenase complex によって 不可逆的 にアセチル CoA になる (4I)。

TCA 回路の 0 番目の反応と考えても良いかもしれない。



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ピルビン酸からの乳酸生成

嫌気的条件下では、ピルビン酸は乳酸 lactate に代謝される。生化学の重要な反応の一つである。この反応の意義は、乳酸を作ることではなく NADH から NAD+ を作り出すことにある。

好気的条件下では、グルコースの 4% 未満しか乳酸にならないと考えられており、この反応のフラックスは小さい (5D)。C=O が CH-OH になる。H の付加反応であり、乳酸脱水素酵素 LDH に触媒される (1)。


黒の数字は、ピルビン酸がグルコース由来であるときの元のグルコースの炭素番号。赤の数字はピルビン酸および乳酸の炭素番号である。


ピルビン酸リサイクリング

TCA回路の中間体から、再びピルビン酸を合成する pyruvate recycling という反応がある (3I)。肝臓、腎臓に存在する。ピルビン酸は、再びアセチルCoAを経てTCA回路に入る。

  1. リンゴ酸 malate が NADP-linked malic enzyme (EC 1.1.1.40) によって脱炭酸されピルビン酸になる。
  2. オキサロ酢酸 oxaloacetate が PEPCK およびピルビン酸キナーゼの作用によりピルビン酸になる。

ピルビン酸リサイクリングが肝臓および腎臓にあることは良く知られているが、脳 brain にも存在するかどうかは議論がわかれている (3I)。脳にあるとする場合でも、neuron にあるのか、astrocyte にあるのかという問題もある。

> 生理的条件では、脳ではこの経路は動いていないだろうと主張した論文 (3)。
  • 標識したグルコースおよび酢酸の追跡実験から、脳ではなく肝臓が主体であると主張。
  • この経路の significant flux を確認したモデリングはないと書かれている。

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References

  1. Amazon link: ストライヤー生化学: 使っているのは英語の 6 版ですが、日本語の 7 版を紹介しています。参考書のページ にレビューがあります。
  2. Merritt et al. 2011a. Flux through hepatic pyruvate carboxylase and phosphoenolpyruvate carboxykinase detected by hyperpolarized 13C magnetic resonance. PNAS 108, 19084-19089.
  3. Serres et al. 2007a. Brain pyruvate recycling and peripheral metabolism: an NMR analysis ex vivo of acetate and glucose metabolism in rat. J Neurochem 101, 1428-1440.
  4. Schroeder et al. 2008a. In vivo assessment of pyruvate dehydrogenase flux in the heart using hyperpolarized carbon-13 magnetic resonance. PNAS 105, 12051-12056.
  5. Lardon et al. 2005a. 1H-NMR study of the metabolome of an exceptionally anoxia tolerant vertebrate, the crucian carp (Carassius carassius). Metabolomics 9, 311-323.
  6. Amazon link: 岩波 理化学辞典 第5版: 使っているのは 4 版ですが 5 版を紹介しています。