視覚系の神経節細胞 Ganglion cells

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このページの最終更新日: 2024/12/15

  1. 概要: 神経節細胞とは
  2. M 系と P 系
  3. 統合失調症と M 系の機能不全
    • バックワードマスキング

2021 年 11 月に URL 変更、リダイレクトしました。


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概要: 神経節細胞とは

神経節 ganglion (複数形 ganglia) は、中枢神経以外の場所で神経細胞 neuron が集合し、周囲から明瞭に区別できる構造を示す言葉である。しかし、神経節細胞 ganglion cell といった場合には、通常は視覚系の特定の細胞を意味する。

神経節細胞とは、網膜 retina にある視細胞 photoreceptor cells から入力を受け取り、視床 thalamus の LGN に投射する神経細胞 neuron である。

視覚系の細胞
画像は Wikipedia より (4)

M 系と P 系

ヒトの ganglion cell には M 型 と P 型があり、それぞれ magnocellular (M) 系および parvocellular (P) 系と呼ばれる2つの情報伝達系を構成する (2,5I)。


名前 応答 解像度 Contrast sensitivity 場所 備考
M Transient & fast 低い 高い Dorsal ものがどこにあるか という情報
P Sustained & slow 高い 低い Ventral ものが何であるか という情報

Magnocellular 系

ラフな情報である dim, low-contrast stimuli を素早く伝える情報伝達系である (3)。Framing function と表現されることある。

> 統合失調症の患者では、この系が異常に活性化または抑制されている (5I)。

  • 初期の患者は image が fragmental であると感じることがあり、これに関係している。

> 低空間周波数と高時間周波数で示される低コントラスト刺激に感度が高い (2)。


Parvocellular 系

Parvocellular neuron は小さくて数が多く、P 系は M 系よりも詳細な視覚情報を伝えることができる (3)。つまり、色や微細構造に敏感である。

  • M 系よりもリニアな応答をし、これは NMDARs の関与が少ないことを示唆する。
  • 高空間周波数と低時間周波数で示される高コントラスト刺激に感度が高い (2)。
  • M 系と P 系は完全には分離しておらず、相互に影響しうることもわかってきている (2)。
  • 近年では、さらに Koniocellular (K) 系が存在することもわかっているが、詳細は明らかではない (2)。
  • 霊長類では、動きに感度の鈍い経路は、網膜では比較的少ない M 型神経節細胞に 10% 依存する (2)。

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統合失調症とM 系の機能不全

統合失調症 schizophrenia 患者またはその前駆症状を示す人は、M 系が過剰な活性化状態にあり、これが異常な知覚体験の原因である可能性が指摘されている (2)。

> 統合失調症患者は、visual spatial location task の成績が悪い (5)。

  • しかし、ものを区別する discrimination task に障害はなく、M 系のみの機能不全が示唆される。
  • 近縁者 first-degree relatives でも同様で、M 系機能不全には遺伝的背景があると考えられる (5R)。

なお、統合失調症患者は嗅覚でも early sensory processing の機能不全を呈することが多く、視覚に限った話ではない (5)。


Backward masking task

M 系の機能不全は、統合失調症患者が バックワードマスキングタスク の成績が低いことから示されてきた (5)。これは次のような行動試験である。

  • まず、特定の形 target が一瞬モニター上に表示される。
  • ミリ秒単位のわずかな時間 (interstimulus interval, ISI) ののち、異なる画像 mask が表示される。
  • 被験者は、target だけが表示される場合には、その形を容易に認識できるが、mask が表示される条件だと、target の認識が困難になる。

Target, mask の認識には、M 系および P 系の両方が関わっているが、target 認識の際に M 系が P 系に干渉してしまうことで、識別性が低下する (5)。つまり、M 系が活性化状態にあると、このタスクでの成績が低下する。


> 統合失調症患者の親類で M 系が活性化していることを示した論文 (5)。

  • 赤色は M 系を抑制する
  • 赤色を mask にすると、健常者では backward masking task の成績が低下する。
  • 1st-degree relatives では変化しない。M 系がもともと活性化しているためと解釈。
  • Relatives を使った実験には、治療薬の影響を排除できるという利点がある。
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References

  1. ベアーほか 2007a (Book). 神経科学 脳の探求. 西村書店.

イラスト、コラムが充実した神経科学の本。生化学の教科書に例えるなら、雰囲気としてはヴォートよりもハーパーの生化学に近い。

ニューロン、グリア、活動電位といった神経科学の基本から、精神疾患やシナプス際構築など、かなり specific な話題にまで展開している。動物の行動実験についても例がたくさん載っているが、あくまで神経科学に関係する範囲で扱われており、実験方法の詳細が載っているわけではない。

また、付録としてヒトの脳の詳しい図が載っているのも役に立つ。よく見る地図だけでなく、血管の分布や様々な断面が載っていて、構造を理解しやすい。


  1. 室橋 2008a (Review). 統合失調症における Magnocellular系機能をめぐって. 精神保健研究 54, 63-71.
  2. Javitt & Freedman (Review). Sensory processing dysfunction in the personal experience and neuronal mechinery of schizophrenia. Am J Psychiatry, published online.
  3. "Retina-diagram" by Fig_retine.png: Cajalderivative work Fig retine bended.png: Anka Friedrich (talk)derivative work: vectorisation by chris - Fig_retine.pngFig retine bended.png. Licensed under CC BY-SA 3.0 via Commons.
  4. Bedwell et al. 2003a. The magnocellular visual system and schizophrenia: what can the color red tell us? Schizophr Res 63, 273-284.

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