研究哲学とは: 定義、書き方など

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このページの最終更新日: 2024/02/14
  1. このページの目的
  2. 導入: 朝島研究室における哲学
  3. 英語の research philosophy の定義
  4. 科学研究とはどういう営みなのか? への回答
  5. 日本ゴム協会誌連載: 私の研究哲学

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このページの目的

気難しい教授が学位論文審査で「この研究の哲学は何か?」と質問するとか、アカデミックポジションに応募するときに研究哲学を求められるとか、わたしたちは様々な場面でこの「研究哲学」という言葉に遭遇する。

また、博士号は英語で言うと Doctor of Philosophy であり、この点からも研究と哲学は密接に関係すると思われる。このページでは、このよくわからない「研究哲学 research philosophy」という概念について、自分の意見をもつことができるようになることを目的に、資料を集めてみる。


朝島研究室における哲学

「研究哲学」で検索すると上位に表示されるのがこのページ (1)。ここには、13 の哲学が載っている。

  1. Reasearch First and Passion
  2. Philosophy をもつこと
  3. 物事には順序がある
  4. ゼミではお互いを信頼し、挨拶の励行
  5. コンプライアンスの遵守と安全管理
  6. 整理整頓
  7. 研究とはオリジナリティーのある研究へのアプローチで知的冒険である
  8. 研究をして、成果を得たら論文を書け
  9. 良い人間関係は一生の宝である
  10. Minimum Essentialの精神
  11. 一流の研究者・教育者をめざせ
  12. 電話など連絡があったときにはきちんとメモしておく
  13. 健康の保持と早期の対応

確かにこれらは研究者として重要な事項であると思うが、ひっかかるのは 2 の 明らかな自己言及 である。また 3, 7, 9, 11 あたりは哲学と言ってもいいような気がするが、たとえば 電話面接 で What is your research phylosophy? と聞かれて To take a note when I receive a phone call. と答えたら、面接に通る可能性は低いと思われる。

つまり、ある状況では「研究哲学」というのは実際的な「研究室ルール」のようなもので、そのような場合に philosophy とは区別されると考えてよいだろう。

英語の Research philosophy の定義

そこで、英語のページで research philosophy に関するものを拾ってみる。

  • The research philosophy will reflect the author’s important assumptions and these assumptions are base for the research strategy (3).
  • "Research philosophy" is an over-arching term relating to the development of knowledge and the nature of that knowledge. A paradigm is "a basic set of beliefs that guide action" (4).

調べていると、よく実証主義 positivism や実用主義 pragmatism についての言及に行き当たるが、これはどうも医学研究者に求められているものとは違うような気がする。

ここでは、a basic set of beliefs that guide action という説明がもっともしっくりくる。つまり、実際の研究活動を行う上で、核になる考え を research philosophy と考えて良いのではないかと思う。



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「科学研究とはどういう営みなのか」に対する回答としての研究哲学

Philosophy としての「研究哲学」を考える際に、このページの問いかけも大きな示唆を与えてくれた (2)。

ここでは、論文を書くことを研究における重要な営みとして、「伝達」という言葉をキーワードに以下の 3 点が重要事項としてまとめられている。

  1. 科学研究は伝達されるべき宿命にある。
  2. 伝達技術の進展は科学の枠を広げる。
  3. 他人の思考に影響を及ぼすことが、科学伝達の本質である。

これは正に「実際の研究活動を行う上で核になる考え」としての研究哲学である。このような具体的な言葉にするために「科学研究とはどういう営みなのか?」という問いかけが有効であると考えられる。

日本ゴム協会誌連載: 私の研究哲学シリーズ

かなり昔 (1980 年代) だが、日本ゴム協会誌では「なぜ先生は、これまでの輝かしい業績を上げられたような視点で、ゴムに関する研究を取り上げられたのですか」という質問に答えるという形で、「私の研究哲学」という連載を行った (5)。

以下のように、やや謙遜気味に「哲学などなかった」と述べている大先生も多い。一方で、研究哲学と呼べそうなものをしっかり明言してくれている方もいる。


第 1 回 大北忠男 ...「現状に最善をつくす」, これが深く肝に銘じて心の支えとなったように思う.
第 3 回 古川淳二 ... 確固とした研究哲学なとあったわけではなく、ただひた走りに何かをやってきたのであって、気がついてみたら定年になっていたというだけである。
第 4 回 村上謙吉 “私の研究哲学” といっても私の人生に一貫した自慢できるような研究哲学は, どこを押しても残念ながら出てこないようである. これから話す私の研究経歴を一読されればおわかりのように, 始めから, すなわち若い時から, 遠大な最終目的をもって, 一貫した研究的自覚をもって人生を歩んだことはまったくないからである.
第 5 回 藤本邦彦 私は絵画, 彫刻などに興味があって, ものごとを解析的に考えるより, いろいろな要素が集合して, その組み合わせによる全体のバランスの取り方を眺めるほ うが好きである ... ことなどが, 今日までの私の研究の方法, 考え方に大きな影響を与えているものと考えられる.

興味深いのは第 7 回である (6)。

この先生は、「研究の哲学というような問題を扱うときには、まず研究とは何か、哲学とは何か、その言葉の定義を明らかにし、取り上げる範囲を判然としておく必要がある」という至言を吐き、何と連載の半分以上を、これらの言葉を定義するために費やしている。研究哲学を要求する全ての人に、まずこの言葉を聞かせてやりたいところである。Pdf ファイルが公開されているので、ぜひ一読をお勧めする。


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References

  1. 研究には哲学が必要である~恩師から学んだ13の教え. Link.
  2. Whitesides教授が語る「成果を伝えるための研究論文執筆法」.
  3. Research Philosophy. Link.
  4. Understanding research philosophies. Link.
  5. 「私の研究哲学シリーズ」開講に当たって. Link.
  6. 神原 1984a. 研究に対する私の信念. 日本ゴム協会誌 57, 345-359.