研究者と特許: 特許を取るか、オープンソースか

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このページの最終更新日: 2025/01/17
  1. 研究者は特許を出すべきかという問題

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研究者は特許を出すべきかという問題

2023 年 10 月ごろ、Twitter でこの問題に関する議論があった。分野ごとに状況が異なり、かつ論点が多いので簡単に結論の出る問題ではないが、考えたことなどをメモしておく。

A 氏が、研究者はもっと金を稼ぐために知財や起業を考えるべきと発言。運営費交付金が減らされたのは、役人がバカだからではなく、研究者に金の問題をしっかりと考えてほしかったから。アメリカを見習い、大学も自分で稼げるようになるべきという主張。

これに対し、B 氏が基礎研究者はそんなことを考える必要がないと発言。関係して色々な人が特許について発現したという状況だった。

特許は必ずしも技術の発展を妨げるわけではない

知財が保護されていないと、企業が参入しにくいという事実があり、とくに創薬業界ではこの傾向が顕著なようだ。つまり、薬品を開発するのにコストがかかり、特許がないと完成した時点ですぐに他企業に真似される。投資した金額を回収できる見込みが減るので、企業は開発に取りかかりにくい。

研究者が特許を出願するようになれば、これをもとに企業が投資しやすくなる。大学にも金が行くだろうし、結果として社会全体の「知」も増える。

ペニシリンの例が引用されていた。ペニシリンは発見者のフレミングが「多くの人に利用してほしい」という理由で特許を取らなかったので企業の参入がなく、結果的に薬の開発が遅れて多くの人が犠牲になったらしい (参考)。ただしこれには "特許出願するための状況 (化合物としての単離ができなかった) や臨床データが不十分であったことも理由ではあるようだ" という記述もあるので、単にフレミングの考えだけということではなかった可能性が高い

いずれにせよ、単に「特許 = 独占 = 悪で、公知の方がよい」というシンプルな考えが通用しない業界もあるということだ。

ただしこれは医薬業界の企業の論理であり、人命を金を天秤にかけた考え方である。人命に関わるような薬の開発だったら、国が利益を度外視して進めるべきで、企業の自由競争に任せていたら弊害が大きいという考え方もある。製薬業界の負の側面に着目すると、こう考える人がいても不思議はなく、こちらの方が理想。実際に A 氏も「どちらかと言うとそう言う世界が絶対いいのですが、それは通用しない世界になってるのです」と発言している。

研究者は、現実に迎合することなく理想を追求した存在で良いというのが私の意見である。よって、特許には興味なく、ひたすら自分の興味だけを追求する人がいても良いし、研究を色々な方法でマネタイズしつつ、企業と組んで発展させる人がいても良い。

自分の分野の作法や、自分の考えを他人に押し付けないことが最も重要である。

オープンソースの成功例

特許を取らずに、成功している例。コンピューターサイエンスは、ハッカー文化からの伝統でその傾向があるように思われる。

  • Linux, Apache, MySQL, R。関連ソフトは特許を取っているものもあるかもしれないが、基本思想はオープンソース。
  • ボルボの 3 点式シートベルトは、特許を取った上での無償公開だった。

役割分担という側面

特許は TLO の仕事であって教員の仕事ではないという考えも。大学教員はただでさえ事務仕事に忙殺されているので、このうえ特許申請まで課せられるとますます研究のための時間が減る。

また、特許が取りやすい分野と、そうでない分野がある。もっと言えば、金を稼げる分野とそうでない分野があり、大学が積極的にマネタイズに乗り出すと、稼げない分野を縮小していこうという流れが生まれる恐れがある (というか、すでに生まれている)。これも問題。

教育面でも考えるべき問題がある。大学での研究の主体は修士・博士の学生なので、彼らが自由に学会発表などをできないケースが生まれる可能性がある。一方で、企業との共同研究ができたり、特許に関する知識・経験が得られたりというメリットもある。

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References

  1. 知的財産権について. 経産省 特許庁ウェブサイト. Link/広告付きリンク.
  2. 学生・若手研究者のための特許 基礎編.
  3. 維新国際特許事務所: Q & A ページ. Link.
  4. 特許取得のための基礎知識 (チテカントロプス). Link: 個人ページ。

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このページの目次

1. 概要
2. 各ステップ
3. 科研費に記載
4. 研究者と特許