日本の研究費の仕組み

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このページの最終更新日: 2024/02/14

  1. 概要
  2. 運営費交付金 (校費)
  3. 科研費
  4. トップダウン型の競争的資金
  5. 企業からの受託研究、共同研究
  6. さまざまな民間の研究費

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概要

理想的な定義では、大学の研究室とは、研究室主催者 (PI, principle investigator) のアイディアをもとにお金 (いわゆる研究費)、労働力、場合によっては実験動物などを消費し、研究成果を生み出す機関である。その過程で、労働力となった学生やポスドクも何かを学び、成長した人材となって巣立っていき、この結果が「教育」と呼ばれるものになる。



このページでは、日本の大学で使われる研究費の仕組みについてまとめる。ページ上部に「このページの最終更新日」があるが、以下の内容は 2015 年ごろの情報をもとにまとめられたものである。


国立大学の研究室では、研究費の内訳は以下のようになっているはずである。

  • 運営費交付金 (大学から支給)
  • 科研費 (科学研究費補助金、文科省、日本学術振興会、厚労省などから支給)
  • 企業からの受託研究または共同研究
  • さまざまな民間の研究費

運営費交付金 (校費)

学生の定員数などに応じて、国から大学に分配される補助金が、運営費交付金である。

国立大学では、支給された運営費交付金の中から、教職員の給与、大学の建物・施設の維持費などを差し引いた金額を大学教員に研究費として配分する (2)。これが 校費 であり、学生さえいれば、黙っていても研究室まで降りてくるお金でもあるが、その額は満足な研究をするのに十分とは言えない。

知恵蔵 2015

国の組織の一部だった国立大学が2004年に法人化されたことを受け、各校の収入不足を補うために国が出している補助金が運営費交付金だ。現在は各校の学生数などに連動して配分されているが、07年2月に政府の経済財政諮問会議の民間議員が、配分ルールを「努力と成果に応じたものに変えるべきだ」と提案した。国立大は「地方や文系単科の大学が破綻(はたん)する」などと反発。こうした声を受けた文部科学省の働きかけもあり、同会議が6月にまとめた「骨太の方針」では、「基盤的経費を確実に措置」し「適切な配分を実現する」とトーンダウンした。


運営費交付金には、以下の 4 種類があるようである (1)。なお、括弧の中の数字は大学共同利用機関法人を含めた 90 法人の平成 24 年度予定額である。

  1. 一般運営費交付金 (9,320 億円)
  2. 特別運営費交付金 (1,027 億円)
  3. 付属病院運営費交付金 (63 億円)
  4. 特別要因運営費交付金 (1,013 億円)

単に「運営費交付金」という場合は、一般運営費交付金のことを指していることが多いようである。特別運営費交付金は、大学単位で応募する競争的資金である。

毎年削減されている

運営費交付金は、2004 年度の国立大学法人化以降、2013 年度まで、毎年約 1 % ずつ削減されてきた (3)。とくに、2013 年度は東日本大震災の復興財源を確保することを 建前 とした臨時的措置により、前年度比 5.1% 減の過去最大の削減となっている。2014 年は、その反動で前年比プラス 3.1% になっているが、全体として削減傾向にある。

旧帝大に重点配分される

平成 21 年度のランキングは下のようになっている (4)。22 年のランキング (5) でも似たような順位で、見て取れることは 東大が別格、旧帝大中心、その次は広島や神戸などの旧官立大が旧帝大並みに健闘といった点である。

  1. 東京大学: 878 億円
  2. 京都大学: 596 億円
  3. 東北大学: 496 億円
  4. 大阪大学: 492 億円
  5. 九州大学: 464 億円
  6. 筑波大学: 419 億円
  7. 北海道大学: 392 億円
  8. 名古屋大学: 358 億円
  9. 広島大学: 264 億円
  10. 神戸大学: 221 億円

運営費交付金の削減は、研究競争力低下の主要因と考えられる

関係者の間では有名な話であるが、まだ日本の科学力が高いレベルにあるという幻想を信じている人も多いと思われる。そのような方には、ある医療系大学長のつぼやき を一読することをお勧めする。ここでは、まとめのページから要点のみを掲載する。

  • 原著論文の数や質からみた日本の科学力は低下傾向にあり、人口当たりに換算すると論文数では 31 位、質では 26 位 である。
  • 大学への公的研究資金、博士取得者数は 先進国中最低 で、増加していない。
  • 運営費交付金の削減と、それに伴う FTE 研究者 (full-time equivalents; パートタイム研究者をフルタイムの人員に換算して数えた人数) の減少が、科学力低下の主要因であると推察される。

科学研究費補助金 (科研費)

科研費は文部科学省からの補助金であり、次のような特徴がある。

  1. 競争的資金、つまり研究者が書面で申請し、採択された人だけが受け取れるお金である。
  2. 研究の内容を、研究者自身が決定する ボトムアップ型 の競争的資金である。このほか、大体の方向性を募集する側が決定し、それに沿った内容の研究のみを審査対象とする「トップダウン型」がある。

日本学術振興会ウェブサイト (6)

科学研究費助成事業 (学術研究助成基金助成金/科学研究費補助金) は、人文・社会科学から自然科学まで全ての分野にわたり、基礎から応用までのあらゆる「学術研究」(研究者の自由な発想に基づく研究) を格段に発展させることを目的とする「競争的研究資金」であり、ピア・レビューによる審査を経て、独創的・先駆的な研究に対する助成を行うものです。


内容は年々変わるので、正確な情報は日本学術振興会のサイトを参照のこと。以下は 2015 年の情報で、採択率は 2015 年度に新規に申請された課題のものである。また、備考欄には主観的な内容も含まれている。


種目名 期間、総額 採択率 備考
特別推進研究 3 - 5 年、5 億円程度だが上下限なし 12.6 % 国際的に高い評価を得ている研究であって、格段に優れた研究成果をもたらす可能性のある研究
特定領域研究 3 - 6 年、2 千万 - 6 億円程度 新規募集は行われていない
新学術領域研究 5 年、1 千万 - 3 億円程度 16.0 % 多くのグループが含まれるのが普通。共同研究を通じて、新たな研究領域を提案する。
基盤研究 S 原則 5 年、5 千万 - 2億円程度 13.2 % 数人程度のグループ。これが取れれば分野のトップという印象。
基盤研究 A 3 - 5 年、2000 万以上 22.9 % 旧帝大の教授レベルが多いか。
基盤研究 B 3 - 5 年、500 万以上 2000万以下 23.2 % 中堅からトップを狙う研究者、という感じ。
基盤研究 C 3 - 5 年、500 万以下 29.4 % 若手研究よりも年間当たりの研究費が低くなりがちなのが苦しい。
挑戦的萌芽研究 1 - 3 年、500 万以下 25.7 % 独創的な発想に基づく、挑戦的で高い目標設定を掲げた芽生え期の研究
若手研究 A 2 - 4 年、500 万 - 3 千万 22.6 % 39 歳以下が若手。しかし、若手向け研究費は2 回までしか採択されない。
若手研究 B 2 - 4 年、500 万以下 29.9% 同じく 39 歳以下。
研究活動スタート支援 2 年以内、年度あたり 150 万以下 24.9 % 研究機関に採用されたばかりの研究者や、育児休業等から復帰する研究者等が一人で行う研究
奨励研究 教育・研究機関の職員、企業の職員又はこれら以外の者で科学研究を行っている者が一人で行う研究

KAKEN のページで、誰がどんな科研費を受け取っているかを調べることができる。

トップダウン型の競争的資金

科学技術振興機構が募集する CREST, さきがけ が代表的である。これらは、国が定めた方針の下で 戦略的な基礎研究を推進するもので、予め研究の方向性を示した「研究領域」が設定され、それに対して募集がかかることになる。例えば、平成 27 年度の CREST では、以下の 4 研究領域において募集が行われている (7)。「えらい人」が研究総括という役目を務める。

  1. 新たな光機能や光物性の発現・利活用を基軸とする次世代フォトニクスの基盤技術
  2. 微小エネルギーを利用した革新的な環境発電技術の創出
  3. 多様な天然炭素資源の活用に資する革新的触媒と創出技術
  4. 環境変動に対する植物の頑健性の解明と応用に向けた基盤技術の創出

企業からの受託研究、共同研究

これらは、どこかで募集がかかるような性格の予算ではなく、教員と企業の個人的な繋がりによるものが多い。

したがって一般的な解説は難しいが、右のような書籍が参考になるかもしれない。最近では、産官学連携というかけ声のもと、大学と企業をマッチングするイベントも数多く行われている。

さまざまな民間の研究費

これも多様であるので、ここではリンクを示しておくだけにする。このサイトの リンク集 にもこの項目があり、そちらを頻繁に更新する予定である。

  • グラントスクウェア: 有名なポータルサイト。
  • 奨学金.net: 給付型奨学金、公的機関のもの、海外留学のためのもの、研究助成金など、さまざまなカテゴリーでまとまっている。便利。
  • アカデミスト: 研究助成の Cloud funding。
  • リバネス: いまや大学発ベンチャーの代名詞となった研究者集団。リバネス研究費という助成制度あり。
  • サイエンスポータル: 研究費もニュースもいろいろ。

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References

  1. 大学職員の書き散らかしブログ. 国立大学法人運営費交付金に思う 〜なぜ定員管理をするのか〜 Link/広告付きリンク.
  2. 白楽ロックビルの生命科学動向分析. Link.
  3. 旺文社研究教育センター. Pdf file.
  4. 国立大学職員日記 運営費交付金から見る国立大学ランキング. Link.
  5. 国立大学職員日記 平成 22 年度 運営費交付金 国立大学ランキング. 広告付きリンク.
  6. 日本学術振興会. Link.
  7. 科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 . Link.