アファーマティブ・アクションについて

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このページの最終更新日: 2024/04/13

  1. 概要: AA とは
  2. AA は逆差別か
  3. AA にまつわるおかしな理屈
  4. 結論
  5. その他メモ

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概要: AA とは

アファーマティブアクション (affirmative action, AA) とは、弱者がおかれている不利な現状を是正するための改善措置のことをいう。歴史的な経緯などが考慮され、具体的には以下のような措置が挙げられる。

  • 大学などにおける貧困層に限定した援助
  • アメリカの大学における差別を受けてきた人種 (黒人、ラティーノ、ヒスパニック など) に対する優遇措置
  • 会社などで、女性や被差別人種が優先的に採用されたり昇進したりする
  • 研究者の女性限定・女性優先公募

このページには、AA について関連する情報や私の考えなどをまとめていく。とくに研究者の女性優遇措置についての話が多くなると思う。

日本のアカデミアにおける AA で、もっとも問題となっているのは、なぜ若手だけが責任を取らされるのかという点。

  • 男性優遇の歴史はあった。なら、それを是正するためには、優遇されてきた年代の男性 (教授クラス?) をクビにして、女性を入れれば良いはず。
  • しかし、AA は新規採用枠に適応されることがほとんどである。なぜ、過去の差別を若手が是正しなければならないのか。

結局、この なぜ若手に皺寄せがくるのかという質問に対して、説得力のある回答を見たことがない 状態が続いている。この状態で、「AA は差別ではない」と主張する人が推進派なので、余計なところに論点が移り、建設的な議論ができないのが現状と認識している。


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AA は逆差別か

研究者の女性優遇措置については、私の中では マクロで見れば進めるべき格差是正、ミクロで見ればどう言い訳しても逆差別 ということで既に決着してしまっている。

つまり、雇用・採用側が「すいません、過去の差別を是正するために、これからは男性をちょっと差別しますので耐え忍んでください。我々は採用にバイアスをかけていいと上から言われてますんで。」と正直に言えば、問題はシンプルである。

そもそも、アカデミックポジションの配分が男性優先であった歴史を是正しようとしているわけなので、逆差別なしにこれを完了するには、男女が完全に平等に評価される状態を、全てのポジションが入れ替わるだけの時間 (数十年?) だけ継続する必要がある。これを短い時間で行うのだから、逆差別が生まれるのは仕方ない。

別の言い方をすれば、これを「差別ではない」と言う人がいるから反感を買うのであって、これを「社会状況を考慮して容認されるべき差別である」というところを出発点にすれば、もっと建設的な議論ができるのではないかと思う。例えば、女性のみ更衣室を作ったり、女性が産休を男性よりも長く取れることと同様に考えるべき。

イギリス英語では positive discrimination

Affirmative action はアメリカ英語、日本語では「積極的格差是正措置」という。どちらも曖昧な言葉を使っているが、イギリス英語では、なんと positive discrimination つまり「肯定的差別」と呼ばれる。

なお、Affirmative action という言葉は、1965 年にアメリカ大統領ケネディーの発した大統領令 10925 号で初めて用いられたと言われている (3)。

条約での記述など

とりあえず目に止まった「第五回 科学技術系専門職の男女共同参画実態調査 男女共同参画学協会連絡会 (2022)」からの引用。

「女子差別撤廃条約」の第 1 部第 4 条 の 1 には、「締約国が男女の事実上の平等を促進することを目的とする暫定的な特別措置をとることは、この条約に定義する差別と解してはならない。ただし、その結果としていかなる意味においても不平等な又は別個の基準を維持し続けることとなってはならず、これらの措置は、機会および待遇の平等の目的が達成された時に廃止されなければならない。」と謳われている。


これを含め、差別でないとする根拠には以下のような文書があるようだ。

  • 「女子差別撤廃条約」の第 1 部第 4 条 の 1
  • 2005 年ポジティブアクション研究会の報告書 (Pdf file)。

しかし、「差別と解してはならない」とか言われても、これは単に利害に関わる人が言い張っているだけにしか聞こえない。差別でないのなら、将来的に廃止する必要もないんじゃないか。

つまり、「男性不利なのはわかっているが、これを差別と呼ぶのはやめようね」という提案があるだけのことと言える。

「そもそも」に「基本的に」という意味がある、という閣議決定がされたことがあったが、これは公式な文書にもろくでもないものがあるという好例だろう。上記の条約や報告書を盲信して、そこで考えることをやめてはならない。

裁判の記録: 2023 年には違憲判決が

これは性別ではなく、人種に関わるアファーマティブ・アクションの話題。アメリカの大学は、いわゆる日本の「推薦入試」みたいなものが基本で、学力テストだけでなく、エッセイ、課外活動など、さまざまな点が考慮される。個人的には、これは相当に悪いシステムだと思っているが、それはまた機会を改めてまとめたい。

2023 年 6 月、アメリカの最高裁で、大学入試に関わるアファーマティブ・アクションが違憲であるという判決が出た。ニュースを一部引用しておく (2)。

判決では、ハーバード大学とノースカロライナ大学の入学選考はいずれも「憲法修正第14条」の「法の平等な保護条項」に違反しているという判断を下した。憲法修正第14条には「いかなる州も、その管轄内にある者に対して、法の平等な保護を否定してはならない」と規定されている。最高裁は、ハーバード大学では「人種がアフリカ系アメリカ人とヒスパニック系アメリカ人の応募者の合格を決定する“大きな要因”である」と判断した。ノースカロライナ大学では、合格者の大半は人種によって決定されたものであると指摘し、そして両校は「法の平等な保護条項」に違反すると判断した。


まあ、私の考えからすると当然すぎる内容なので、驚くにはあたらない。

少し背景をあげておくと、アメリカには共和党と民主党という二大政党がある。民主党はリベラルで、同性愛や人種的マイノリティの保護にも積極的である。これは良いことのように聞こえるが (実際に良いことなのだが)、最近は行きすぎてクレイジーとしか思えないことが多い。これに対して、共和党は伝統的な価値観を重んずる傾向がある (参考: 共和党と民主党の違い)。

最高裁の判決は、9 名の判事による多数決のようだ。この 9 名がどちらの政党かによって、つまり政治的イデオロギーによって判決が左右される。

つまり、最高裁の判決と言うとなんだか権威があって絶対的に正しいもののように聞こえるが、要はその 9 人の中高年がどう考えているかというだけのことに過ぎない。プロフェッショナルとしての知識があることは重々承知しているが、最高裁判決というのは、政治的に民主党の判事を持ってくるか、共和党の判事を持ってくるかでひっくり返る程度のものである。

アファーマティブ・アクションのような「正解がない問題」については、外部の人の判断に寄りかかって安易に正しいとか間違いとか結論を出すのではなく、グレーゾーンに留まる根性をもって考え続けることが重要と思う。

AA に関する裁判はたくさんある。表にしておく。

1873 年

アメリカ連邦最高裁判所。「女性は、社会生活における多くの職業に適さない存在である」として、女性が弁護士の資格を得て独立した職業につくことを認めないイリノイ州法を合憲とした (3)。

1987 年
Johnson 判決

雇用上、女性を優遇することは男性差別にあたらないという判決。アメリカ連邦最高裁判所。

AA にまつわるおかしな理屈

優秀な男性なら職をみつけられる

2022 年 4 月ごろ、Twitter で有名になったやりとりがあった。個人名は伏せるが、典型的なやりとりなので概要をメモしておく。個人的にはスクショを保存済み。

  • 女性限定公募で心が折れるという男性は、これまでに折られてきた女性の心を考えたことがあるのか?
  • なぜ、これまでの罪を若手が背負わなければならないのか? (はっきりとした回答なし)
  • 「優秀な若手男性がポストに恵まれないことは周囲を見ていて無いと思います」

これは全く議論になっておらず、職探しに苦しんでいる若手男性への侮辱である。

このごく主観的な回答のあと、いかに女性が研究者として優秀であるかというデータを羅列。これは、次の項目「女性の方が優秀である」に関連する。

女性の方が優秀である

女性の方が優秀というデータは、探せばどこかにあるのかもしれない。

しかし、たとえ女性の方が論文を出していたり、科研費の採択率が高かったりしても、それは女性限定公募の正当化にはならない。これが OK なら、女性の方が離職率が高いというデータを以て男性を優遇する (いくつかの医学部で行われていて問題になった) ことも正当化されてしまう。

男性は人生において様々な面で優遇されているので、アカデミアにおいては女性よりも有利な状況であるという議論もある。これはそうだと思うが、たとえば男性と女性の応募者がいた場合に「この男性は実力が 70% で、30% は下駄。対して女性は 90% が実力なので、女性の方がよい」などと優遇の効果を定量化することは現実的に不可能。統計上の差異を個人にあてはめて、「この男性はこの程度だろう」とジャッジすることは、倫理的に許容できない。

AA の財源は普通の雇用と異なる

財源の問題。「女性限定公募の財源は、普通の雇用とは異なる」として正当化する意見もある。これも詭弁に過ぎないように思う。結局はカネをどこからか持ってきているわけなので、「だったらその財源を通常の雇用に使って、男性も考慮しろ」と言えば、それだけでこの議論は終了なのではないだろうか。

「財源」なんて、どこかで人間が決めているだけのものなのに、それを神から与えられた不可侵のもののように思ってしまっているのが問題。「女性限定公募推進」「現状の盲目的肯定」「権威主義」が同居してしまっている例を見ることがあるのだが、一般化してほしくないところである。

結論

以上のように、AA は完全な男性差別である。多くの場合、若手に皺寄せがきているので、これは年齢差別の問題 (若手は任期制になり、老人は定年を延長するなど) と重なり、若手研究者をさらにストレスフルにしている。

ただし「若手」と言っても色々あり、40 歳未満限定のグラントなどもあるので、むしろ就職氷河期の世代の扱いが悪いという議論もある。これも時間があれば年齢の問題としてまとめてみたい。

話を AA に戻すと、このような不完全かつ差別的なアクションを、一部が余計な理屈をこねて正当化したがるから、余計な議論が生まれているのが現状。まずは推進側にまともな人間をもってくる必要がある。

次に、ではこの「差別である AA を進めるべきか」という問題。以前はポリコレを考慮して以下のように肯定的に書いていたのだが、いろいろ考えた結果、そろそろ正直に書いてもいい状況になってきたのと思ったので更新。

とはいえ、アカデミアは今でも男性主体で、その弊害は大きいと考える。AA は差別であるものの、この問題を是正するためには、「差別します、すみません」と正直に言いながら AA を進めるのが、現時点で思いつく最適解である。

これは、「過去の (女性に対する) 差別によって生じた社会の歪みを是正する」ための 逆差別がどこまで許されるかという問題 である。

アカデミア AA の場合は、逆差別によって生じる個人の不利益が「男性が就職する機会を奪われる」という非常に大きなものになるので、許容できないというのが私の立場である。最初に述べたように、若手に皺寄せが行くというのも許容できないポイントである。

このあたり、逆差別が許容されている例、また男子スポーツ・女子スポーツのように分けることで差別をなくしている例などを調べて、もう少しまとめてみたい。

その他メモ

その他の論点として「男性が極端に少ない分野 (看護など) では、男性を優遇する AA をしなくていいのか」というポイントもある。これも検討に値する。

大きな視点では、男性が女性よりも dominant であったという歴史があるため、これを根拠とすれば、男性優遇の AA は必要ない。

分野を限定すれば、女性が dominant である分野もあったはずで、これを根拠にすれば、男性優遇の AA は必要だろう。つまり、「dominant であった」という視点をどこに置くかが論点になる。アカデミアの場合は男性なので、これはあまり問題とならなかったが、たとえば看護では、以下の 2 点のバランスを考える必要が出てくる。

  • 小中学校、受験などでは、おそらく男性有利。
  • 看護師としての採用などでは、女性有利だったと予想される。

また、建築現場、ゴミ収集、自衛官などはほとんどが男性であるにも関わらず、ここに女性専用枠を作れという声は聞いたことがない。このような職業では、女性専用枠を作っても応募がほとんどないという結果になることが予想されるが、それでもダブルスタンダードのように思われる。

有料ノート カスとしか言いようのない米国の教育制度と、アファーマティブ・アクションがあの国で必要だった理由 も面白い。アメリカでは、初等教育の学区が自己採算性をとっていて、これが学区の格差を生みかつ固定している。日本では国や県レベルなので、学区ごとの差は少ない。この社会問題の影響が大きすぎたので、アファーマティブアクションという強力な手段を取る必要があった。


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References

  1. 共同さんかく、応募のしかく、ごかくの評価は得られるか? Link: Last access 2022/10/09.
  2. 逆流するアメリカ社会:最高裁の「アファーマティブ・アクション」違憲判決、その意味と影響. Link: Last access 2023/07/25.
  3. 松田, 1988a. 女性差別解消のためのアファーマティブ・アクションと逆差別. 調布学園女子短期大学紀要 =21, 286-311.

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