酸素: 呼吸に使われ、老化の原因ともされる重要な元素

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このページの最終更新日: 2024/02/14

  1. 概要: 酸素とは
  2. 発見の経緯
  3. 酸素分子 O2
  4. 酸素と生物の進化: Oxygen Control Hypothesis
  5. 酸素消費量と代謝
  6. 低酸素に対する応答

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概要: 酸素とは

酸素 oxygen は原子番号 8 の元素である。

最も量の多い同位体 16O は 陽子 8 個、中性子 8 個および電子 8 個から成り、最外殻電子は 6 個である (図は酸素原子の最外殻電子, Public domain)。


酸素原子の最外殻電子

酸素には、以下のような性質がある。

  • 地球上に多量に存在し、適度な反応性をもつことから、多くの生物が酸化によって生存のためのエネルギーを得ている (1)。

発見の歴史

フロギストン説と酸素の発見

フロギストン (燃素)とは、18 世紀ごろまで物が「燃える」ことを説明するために考えられていた仮想的な物体である (1)。可燃性物質の中に含まれており、燃焼中に遊離するとされた。

酸素の発見は、ラボアジエの正確な重量測定法およびフロギストン説と深く関わっている。ラボアジエは、灰の重量を正確に測定することで 燃えた後には重量が増加する ことを突き止め、フロギストン説を討ち破るとともに、この際に燃えるものと結びつく物質として酸素を同定した。

酸の概念は当時から知られており、酸素が多くの物質と結合して酸を作ることから、ギリシャ語の酸 (オクシュ) とゲノイマイ (作る) から oxygen という言葉を作った。


酸素分子 O2

酸素分子 O2 は、下のような構造をもっている (1)。それぞれの原子が不対電子をもつ ことが特徴である。

酸素分子の最外殻電子

不対電子とは、両側に 1 つの点で書かれた対になっていない電子のことである。この不対電子がそれぞれに他の分子の不対電子とペアを形成しようとすることが、酸素に高い反応性をもたらす原因である。

この 2 つの電子がペアを形成した分子が 一重項酸素 であり、反応性が高い 活性酸素 である。


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酸素と生物の進化: Oxygen Control Hypothesis

20 世紀後半からの定説で、地球上の酸素濃度が低かったために、動物は新原生代 Neoproterozoic Era まで進化しなかった とする仮説である (3)。新原生代は 1 - 0.541 billion years ago であり、この時代に地球上の酸素濃度が急激に上昇したことがわかっている。

この仮説は、「なぜ動物が地球上に現れるのにこんなに時間がかかったのか」という疑問に対する回答にもなっている。

酸素消費量と代謝

はじめに「酸素消費量」でググったときには、心拍数や血流との関係を表す式がたくさん出てきて混乱させられた。「酸素消費量」という言葉は、分野によって違う扱われ方をしているようである。最終的に意味するところは同じだが、アプローチの違いというべきか。まとめると以下のようになる。

基礎生物学一般

生物またはその組織が消費する酸素の量で、単位は mL/min/g、mL/mim/個体 などである。

医学・看護学系

ヒトで簡単に測定できるパラメーターから、酸素消費量を推定することが重要なようで、例えば次のような式が出てくる (4)。

酸素消費量 = 心拍出量 (CO : L/min) x (CaO2 - CvO2)

CaO2 は動脈血酸素含量、CvO2 は混合静脈血酸素含量で、いずれも ヘモグロビン 濃度やその酸素飽和度の関数である。

環境系

生物の体ではなく、水中のバクテリアの代謝などを念頭に置いている。化学的酸素要求量 (chemical oxygen demand; COD) と同義で、測定には一般に酸化剤が使われる。

単位は ppm であったり mg/L であったりする。


成人の脳では、安静時の酸素消費量は 3.5 mL/min/100 g であり (5)、これは全身の酸素消費量の約 20 % である。


低酸素 hypoxia に対する応答

以上のように、酸素はほとんどの生物で代謝を維持するために必須である。したがって、酸素が手に入らなくなった際には、生物の体は速やかに応答する必要がある。

なんらかの原因で酸素が不足した状態を hypoxia といい、組織への酸素供給がない状態を anoxia という (例えば このページ)。

生体に重要な hypoxia およびその応答には、以下のようなものがある。詳細は hypoxia のページ にまとめたので、そちらを参照のこと。

  • 短期的には、酸素を使う酸化的リン酸化から、酸素を必要としない解糖系に代謝がシフトする。
  • がん細胞は、急激な増殖のために hypoxia の状態にあることが多い。そのため、血管新生を促進して酸素を得ようとする。
  • 発生過程で起こる hypoxia は、細胞分裂を促進して発生に寄与することがある (6)。

また、hypoxia からの回復を reoxygenation という。この過程において、電子伝達系からの電子のリークが増大し、活性酸素 ROS が発生することも知られている (9)。


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References

  1. Amazon link: 小城 2002a (Book). 生命にとって酸素とは何か―生命を支える中心物質の働きを探る (ブルーバックス).
  2. 小宮山、長棟 1997a (Book). 生命化学概論. 丸善株式会社.
  3. Millis and Canfiled 2014a (Review). Oxygen and animal evolution: Did a rise of atmospheric oxygen trigger the origin of animals? Bioessays 36, 1145-1155.
  4. 日本外科代謝栄養学会. Link: Last access 7/11/2017.
  5. 日本救急医学会・医学用語解説集. リンク切れ. http://www.jaam.jp/html/dictionary/dictionary/word/0809.htm.
  6. Patel & Simon 2008a (Review). Biology of hypoxia-inducible factor-2α in development and disease. Cell Death Differ 15, 628-634.
  7. Youngson et al. 2002a. Oxygen sensing in airway chemoreceptors. Nature 365, 153-155.
  8. Amazon link: Hine (2015). Oxford Dictionary of Biology.
  9. Dashty 2013a. A quick look at biochemistry: carbohydrate metabolism. Clin Biochem 46, 1339-1352.

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