寄稿記事: 質量分析を用いた抗体分子の特性解析

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このページの最終更新日: 2020/06/11

  1. 私が抗体分子の特性解析を始めることになったきっかけ
  2. 抗体分子の特性解析とは

このページは、質量分析プロトコール (抗体分子の特性解析編) の運営者様からの寄稿記事です。

このブログには素晴らしいプロトコールがたくさんあるので、興味のある方は是非ご覧下さい。下記のリンクはプロトコールの一部です。



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私が抗体分子の特性解析を始めることになったきっかけ

とある地方公共団体の研究支援センターで質量分析の技術者として、3年前から雇われた高齢ポスドクが私。そこでは地元の薬業振興のために、研究支援センターなるものを立ち上げ、企業をバックアップしていこうとしていた。私自身はそれまで、質量分析に15年ほど携わってきており、主にメタボローム解析、タンパク質の翻訳後修飾解析、薬物動態測定、生体膜機能解析などの分野で質量分析計を使ってきた。ところがその研究支援センターでは、今後抗体医薬の開発を支援していくために、高分解能質量分析計(LC-TOF/MS)を活用して抗体医薬の品質評価を行えるようにしようということだった。

さて、どうしたものか?In Gel DigestionでSDS-PAGEバンドのタンパク質同定ならやってたけど、タンパク質のリン酸化サイトを決めたこともあるけど、抗体分子の品質評価ってどうやるんだ?過去に私がやっていた、いわゆる同定しさえすればいいというようなプロテオミクス手法とは違うんだろうな、くらいのことは想像できた。

私が所属する研究支援センターでは原著論文を購読していないため、アカデミアのように文献検索ができない。フリーで読める文献をネット上で漁るしかなく、いろいろ探した結果抗体の品質特性解析に関する文献や資料をいくつか見つけることができた(参考文献)。中身はガイドラインであったり、総説であったり、なるほど抗体医薬の開発では、こんなデータが必要なのか、ふむふむ、このうち質量分析計でできることは、これとこれか、みたいな感じだった。ところがいざ実験に取り掛かろうにも、具体的な実験書であったり、プロトコールを記載した学術論文のようなものは手に入らない。受託分析会社でも、抗体の特性解析を請け負うところはあるようだが、やはり具体的なやり方まで載せているところはない。

この分野の知り合いもいないし、さて、どうしたものか。とりあえず、超お高かかった高分解能質量分析計を購入したのだからと、購入したメーカーの技術者に頼み込んで、抗体分子の特性解析について、知ってることをすべて(?)教えてもらった。幸い親身になって教えてもらえ、そのやり方を基に、自分なりの工夫を加えて再現性や感度を高める方法に仕上げていき、プロトコールとしてまとめていった。現在もこの作業を継続している。


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抗体分子の特性解析とは

では、そもそも「抗体の品質特性解析」って何なの?という話しである。低分子医薬品の開発では、生理活性本体の化合物の構造を決め、薬効や副作用を調べる基礎研究を経てから、ヒトでの有効性と安全性を調べる臨床試験に入る。この臨床試験に使用する薬剤を作る段階では、不純物などを評価するための規格試験を設定し、一定品質の薬剤を供給していく必要がある。例えば不純物が0.1%以上含まれる場合は、前もってその不純物の構造を決定し、安全性を証明しておかなくてはならない。

一方で、動物培養細胞に作らせたタンパク質製剤の場合、均一な構造のタンパク質はありえない。細胞で合成された段階で、不均一な糖鎖が付いていたり、アミノ酸残基がいくつか修飾を受けていたりする。我々のからだの中のタンパク質自体も、不均一な構造をとりながら機能を担っている。このため低分子化合物のように構造均一性を求めるものではなく、どの程度不均一かをしっかり把握し、ある一定の不均一性の幅をもって製造物の品質を一定に保つ必要がある。その不均一性の範囲において有効性と安全性を証明していく。これまでの数々のバイオ医薬品開発の知見から、どのような糖鎖が付加し、アミノ酸残基がどの程度修飾を受けると副作用が現れてよろしくない、などの情報が蓄積されつつある。品質に影響を及ぼさないような構造変化はさほど重要ではなく、薬効や副作用に影響を及ぼす構造変化が何かを特定しなければならない。これが重要品質特性解析である。そのためには、できる限り構造の多様性を捉える必要があるため、(建前上は)現代の科学技術レベルでできることは可能な限り解析することになっている。というわけで、正直キリがないので、この時点でウンザリしがちであるが、とりあえず我々のできることをプロトコールにしてみたので、参考にしていただきたいと思っているわけである。


References

  • 糖タンパク質医薬品の特性・品質評価における質量分析法を用いた糖鎖不均一性解析. Trends in Glycoscience and Glycotechnology, 20(112), 97-116 (2008)
  • 抗体医薬品の糖鎖解析について. CHROMATOGRAPHY, 34(2), 83-88 (2013)
  • 抗体医薬品開発における品質設計. 薬剤学, 74(1), 39-46 (2014)
  • バイオ医薬品の特性解析―翻訳後修飾を含む全構造解析― The TRC News, 201611-01 (2016)
  • バイオ医薬品の品質特性解析における質量分析. J. Mass Spectrom. Soc. Jpn., 64(3), 93-96 (2016)
  • バイオ医薬品の分析のコツ 品質評価のための基礎と応用 第13回 抗体医薬の事例で実際に分析法・品質評価を考える. PHARM TECH JAPAN, 34(10), 157-167 (2018)
  • 抗体医薬品開発における質量分析技術. SAR News No.35, 8-15 (2018)
  • モノクローナル抗体医薬品の翻訳後修飾[その1]. 医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス, PMDRS, 50(6), 307-313 (2019)

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