分子生物学で使われる抗生物質 アンピシリン:
濃度、作用機序など

UBC/reagents/a/ampicillin

このページの最終更新日: 2024/02/15
  1. 概要: アンピシリンとは
    • 作用機序
    • Amp 耐性遺伝子
  2. プロトコール
    • ストック溶液の調製
    • 培地などに添加する濃度
    • アンピシリンはどれぐらい保つのか?

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概要: アンピシリンとは

アンピシリン ampicillin とは、バクテリアの細胞壁合成を阻害する 抗生物質 anticiotics の一つで、分子生物学実験でよく使われる。

つまり、アンピシリン耐性遺伝子と目的遺伝子の両方をベクターに組み込み、形質転換された大腸菌を選抜するわけである。

アンピシリンは、ペニシリン G にアミノ基を付加した aminopenicillin であり (3, 構造は 文献 1 より)、これによってグラム陰性菌の外膜を透過するようになっている。そのため、グラム陽性菌および一部のグラム陰性菌に有効である。



アンピシリンの構造には、ページ下方にある ラクタム環 lactam ring が含まれている。ラクタム環は炭素数に応じて β-lactam (C が 3 個)、γ-lactam (4 個)、δ-lactam (5 個) のように名前がついている。このことから、ペニシリンやアンピシリンは β-ラクタム系抗生物質 と呼ばれる。


作用機序

アンピシリンの標的になる生物では、細胞壁の一部に薄い (わずか 1 または 2 分子) ペプチドグリカン peptideglycan でできている部分がある (3)。グリカン鎖はアミノ糖であり、δ-アミノ酸を含むペプチド鎖と cross-link している。

ペニシリン (アンピシリンを含む) は、この クロスリンク形成の最後の段階を阻害する (3)。この反応は細胞外で起こり、transpeptidase に触媒される。細胞壁の形成は、バクテリアが増殖しているときに活発に行われる。そのため、ペニシリン系の抗生物質は 増殖期のバクテリアに有効 であり、定常期のものには効果が低い。


Amp 耐性遺伝子

アンピシリンの構造には lactam ring が含まれており (図, 4)、これを加水分解する酵素 β-ラクタマーゼ β-lactamase が Amp 耐性遺伝子となる (3)。


β-lactamase はペリプラズムに存在する 酵素 で、bla 遺伝子にコードされる TEM β-lactamase が分子生物学実験における Amp 耐性遺伝子としてよく使われる。

この酵素は 286 残基のタンパク質で、最初の 23 残基はシグナルペプチドである。Amp を含む LB プレート で大腸菌を選択する実験を考えてみよう。形質転換された大腸菌は β-lactamase を細胞外に分泌する。すると、形質転換されたコロニー周辺に Amp を含まない部分ができる (3)。ここには形質転換されていない大腸菌もコロニーをつくることができる。これが サテライトコロニーであり、またサテライトコロニーがしばしば形質転換されていない理由でもある。


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使用プロトコール

ストック溶液の調製方法

ストック溶液は、以下の方法で調製する (5)。

  1. アンピシリンナトリウム塩 Ampicillin sodium salt を蒸留水に 5 - 20 mg/mL で溶解。
  2. 0.22 µm のフィルターで滅菌。
  3. ストック溶液は -20 °C で保存可能。

使用濃度など

寒天培地 (LB 培地など) には、20 - 50 µg/ml の濃度で加える (5)。20 - 200 µg/ml としている文献もある。

アンピシリンは熱に弱く、45℃ ぐらいまで冷ましてから加える。安定なアナログとしてカルベニシリン carbenicillin がある。これはペニシリンにカルボキシル基を付加した carbopenicillin で、アンピシリンに比べて高価である (2)。


アンピシリンはどれぐらい保つのか?

  • ストック溶液は数ヶ月安定 (6)。Ref 6 のサイトでは 1 ヶ月と解釈しているが、元は for months なので数ヶ月。私の感覚でも、少なくとも 3 ヶ月は大丈夫。
  • 35°C で 1 ヶ月保存すると、元の溶液の 59% になるという情報がある (6)。しかし、こんな条件で保存することはあまりないはず。
  • 培地などに加えて 4°C 保存なら、数週間。


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References

  1. By - 投稿者自身による作品, パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=11213692
  2. 分子生物学実験の便利帳. Link.
  3. Green and Sambrook, 2012a. Molecular cloning: A laboratory manual, 4th edition. Cold Spring Harbor Laboratory Press.

分子生物学関係のプロトコール集では、この本よりも有名なものはないだろう。

日本語版がない、電子書籍版もない、値段が高い、重いなど問題点は多々あるが、それでも実験室に必ずあるべき書。ラボプロトコールをまとめたりする時間を大いに節約することができる。

このサイトにあるプロトコールも、多くはこの本の記述を参考にしたものである。

  1. By Edgar181 - English Wikipedia, パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=1955126
  2. Sigma じっけんレシピ. Pdf file.
  3. アンピシリンの半減期. Link: Last access 2018/05/31.

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