ヘモグロビン: 酸素を運搬するタンパク質

protein_gene/h/hemoglobin
9-30-2017 updated

  1. 概要: ヘモグロビンとは
  2. 構造
  3. 酸素との結合
  4. 病気との関連
    • 鎌状赤血球貧血症
    • サラセミア
    • 貧血
    • 多血症
    • 糖尿病 - ヘモグロビン a1c

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概要: ヘモグロビンとは

ヘモグロビン hemoglobin は、赤血球中に存在し、酸素を運搬するタンパク質である。

1 残基のヘモグロビンのアミノ酸変異がもたらす鎌状赤血球型貧血 sickle-cell anemia は、アミノ酸配列の変異が病気の直接の原因となりうることを広く認めさせた最初の事例であり、ヘモグロビンは生化学の発展に大きく貢献してきた歴史的なタンパク質である (1)。

血中ヘモグロビン濃度の正常値は、男性 14-18 g/dL、女性 12-16 g/dL である (4)。

血液パラメーター

赤血球数 (正常値は男性 410-530 万/µL、女性 380-480 万/µL) および ヘマトクリット値 (正常値は男性 14-18%、女性 12-16%) がヘモグロビンおよび赤血球に関連する血液のパラメーターである (4)。


構造

ヘモグロビンの構造は、酸素との結合に重要な ヘム heme およびタンパク質部分である グロビン globin に分けることができる。ヘムはプロトポルフィリンに鉄が結合したものである (4)。

ヘモグロビンは 2 つの α 鎖 (α chain) と 2 つの β 鎖 (β chain) から成るヘテロ 4 量体である。それぞれの chain は 1 個のヘムと結合しており、ヘモグロビン全体では 4 つのヘムが含まれる。それぞれの chain の構造は単一のポリペプチドから成るミオグロビンに似ており、4 つのミオグロビン様のタンパク質が多量体としてのヘモグロビンを形成しているとも言える。


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酸素との結合: シグモイド曲線を描く

ヘモグロビンの酸素結合能は、ミオグロビンとの比較で議論するのがわかりやすい。

右の図 (2) で、Y 第 1 軸は分子の何 % が酸素と結合しているかという割合、X 軸は酸素分圧である。ここでは 成体型のヘモグロビン HbA (緑の線)ミオグロビン (赤の線) に着目する。

ミオグロビンは酸素分圧が上がると急激に酸素で飽和するが、ヘモグロビンはシグモイド型 に酸素との結合が増加する。

Cooperative binding

ヘモグロビンには 4 つの酸素結合部位 (heme) がある。上記の曲線の形から、1 つのヘムに酸素が結合すると、他のヘムと酸素の親和性が増大する ことがわかる。

酸素と結合していないヘモグロビンは T (tense) state、結合したヘモグロビンは R (relaxed) state という高次構造をとる (1)。

生理的意義

ヘモグロビンは、酸素分圧の高い肺 lung から、酸素分圧の低いその他の組織に酸素を運搬しなければならない。そのために、このシグモイド型の結合様式は非常に合理的である。

  • 酸素分圧 100 mmHg 程度の肺では、なるべく多くのヘモグロビンが酸素と結合したい。ある程度の酸素分圧 (図では 75 mmHg 以上) から、ほぼ 100% のヘモグロビンが酸素と結合するようになっている。リニアに増加して 100% に至るよりも有利。
  • 酸素分圧 20 mmHg 程度の末梢組織では、効率よく酸素を手放したい。カーブの形により、これも可能となっている。

純粋な T state のヘモグロビンは不安定で、低分圧の酸素とも親和性が高い。赤血球内では 2,3-biphosphoglycerate (2,3-BPG) という物質が 4 量体の中心部分に結合し、親和性を低下させている (1)。

なお、ヒトの胎児では成体と異なる fetal hemoglobin が発現している。このヘモグロビンは α 鎖と γ 鎖から成る 4 量体で、γ 鎖では 2,3-BPG の結合サイトであるヒスチジンがセリンに置換されている (1)。そのため、2,3-BPG との親和性が低く、酸素との親和性が高い。上の表の青い線 HbF はこれを示している。このために、母体から胎児への酸素の運搬が効率よく行われる。


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病気との関連

鎌状赤血球貧血症

鎌状赤血球貧血症 sickle-cell anemia の患者の赤血球では、ヘモグロビンが巨大な繊維状の凝集体 fibrous aggregates を形成している (1)。これが赤血球を変形させてしまう (鎌状、写真)。

このような形状の赤血球は毛細血管を詰まらせ、血流を阻害する。また、通常の赤血球よりも機能が低いことも知られている。

ヘモグロビン β 鎖の 6 残基目のグルタミン酸がバリンに変異していることがこの病気の原因である (E6V mutation, ref 1)。患者ではこの変異はホモで入っている。つまり、この病気は 劣性の遺伝病である

バリンは炭化水素の側鎖をもつ 分岐鎖アミノ酸 であり、これが分子表面に導入されることによって、他の疎水性残基との相互作用によるタンパク質の凝集が促進される。凝集は deoxyhemoglobin のみで起こる。

鎌状および通常赤血球の電子顕微鏡写真 (3)

アフリカでは、人口のおよそ 1% がこの病気にかかっている。

  • ヘテロの変異では病気にならないこと
  • ヘテロの変異が、マラリアに対する抵抗性があること

が、この病気が広がっている原因である (1)。


サラセミア Thalassemia

サラセミア thalassemia は、ヘモグロビン鎖が十分な量合成されないことが原因で起こる病気であり、貧血 anemia、疲労 fatigue、脾臓・肝臓の機能不全などをもたらす。

α chain が足りない α-thalassemia では、ヘモグロビンテトラマーが β chain のみから構成され、酸素との親和性が上がる。結果として、抹消組織での酸素のリリースが起こりにくくなる。

β chain が足りない β-thalassemia では、α chain が未熟な赤血球内で凝集してしまい、十分な赤血球が作られなくなる。β-グロビン遺伝子の点変異または欠損が原因である。


貧血

貧血とは、検査データ上では赤血球数、ヘモグロビン濃度およびヘマトクリット値が正常値以下に減少した状態をいう (4)。この 3 者は並行して減少するわけではなく、たとえば鉄不足の際にはヘモグロビン濃度が減少しても赤血球数は正常である場合がある。貧血はこれらの 3 つの数値から計算される 赤血球恒数 によってタイプ分けすることができる。


多血症

多血症とは、赤血球数が 600 万/µL 以上、ヘモグロビン濃度が 18 g/dL 以上、ヘマトクリット値が 55% 以上に増加している状態をいう (4)。

赤血球の総量は正常であるが、重症の下痢や多量の発汗によって血漿が減少し、結果として単位あたりの赤血球量が増加した状態を 相対的多血症 という。血液が濃縮された状態である。

一方、赤血球の総量そのものが増大している場合を 絶対的多血症 という。これはさらに 2 種類にわけられる。

  1. 真性多血症: 骨髄での赤血球の異常増殖による (4)。骨髄腫瘍の一種であり、まれに白血病へ移行する例がある。
  2. 二次性多血症: 肺や心臓の疾患によって低酸素 hypoxia 状態が続くと、補償として赤血球が増加する。喫煙の症状の一つでもある。

糖尿病 - ヘモグロビン a1c

ヘモグロビン a1c はグルコース glucose と結合したヘモグロビンのことで、糖尿病 を判定する指標の一つとして使われる。

血糖値は食事によって上下するので、一度の診断で血糖値の高低を判断するのは難しい。しかし、血糖値が高い状態が長く続くと、ヘモグロビン a1c の量が徐々に増えていく。そのため、この値を長期間の血糖値の指標として使うことができる。

正常値は全ヘモグロビン量に対して 4.3 - 5.8% であり (1)、6.5% 以上であれば糖尿病であることが強く疑われる。


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アップデート前、このページには以下のようなコメントを頂いていました。ありがとうございました。

2018/05/23 02:53 ヘモグロビンa1cで検索して、このページにたどり着きました。とてもわかりやすいです!



References

  1. Amazon link: ストライヤー生化学: 使っているのは英語の 6 版ですが、日本語の 7 版を紹介しています。参考書のページ にレビューがあります。
  2. By Leticia [CC0], via Wikimedia Commons.
  3. By NIDDK - (US government agency) site at http://www.cc.nih.gov/ccc/ccnews/nov99/ . The photo is attributed to Drs. Noguchi, Rodgers, and Schechter of NIDDK., パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=630192
  4. 高見 1991a. 検査値で読む人体. 講談社現代新書.

参考図書