糖尿病:
主にインスリンの機能不全により、血糖値が高くなる病気

UBC/obesity/diabetes

このページの最終更新日: 2024/02/14

  1. 概要: 糖尿病とは
    • I 型、II 型および妊娠糖尿病
    • 糖尿病の症状
  2. インスリン抵抗性とは
  3. 糖尿病に関係する遺伝子
  4. 糖尿病の原因

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概要: 糖尿病とは

糖尿病 diabetes とは、血糖値が高い状態を示す病気である。NIH のサイトでは "Diabetes is a disease that occurs when your blood glucose, also called blood sugar, is too high" と定義されている (2)。

肝硬変、肝臓がんなどのさまざまな合併症を引き起こす。2003 年では世界で 1 億 9300 万人(人口の 5%)が罹患しているとされる (1)。日本国内の患者数は、平成 26 年で約 316 万人であり、平成 23 年時よりも 46 万人増加している。

血糖値とは、血液中のグルコース glucose(ブドウ糖とも呼ばれる)濃度のことである。グルコースは生体の重要なエネルギー源であるが、エネルギーを生み出すためには、血液から細胞の中に取り込まれて分解される必要がある。血糖値が高い状態とは、主にこの「取り込み」がうまくいっていない状態のことである。過剰な血液中のグルコースの一部は尿として排出され、これが糖尿病の名前の由来である。


I 型、II 型および妊娠糖尿病

糖尿病には、I 型、II 型および妊娠糖尿病の 3 つのタイプがある。

I 型糖尿病

I 型糖尿病 type I diabetes mellitus (T1D) は、インスリン を分泌する膵臓の β 細胞が機能不全に陥るタイプの糖尿病である (2)。多くの場合、免疫システムが β 細胞を攻撃してしまうことによる自己免疫疾患である。かつては juvenile diabete とも呼ばれた。若年期に発症することが多いが、成人でも発症する。

インスリン注射、投薬、食事療法、適度な運動などが治療法として用いられている。日本では、糖尿病全体の約 5% を占める。

II 型糖尿病

II 型糖尿病 type II diabetes mellitus (T2D) は、多くの場合成人でみられる。肥満 obesity の人ほど発症しやすい。通常は、インスリンがあっても細胞がグルコースを取り込みにくくなる インスリン抵抗性 insulin resistance を伴う。

妊娠糖尿病

妊娠糖尿病 gestational diabetes mellitus (GDM) は妊娠中の女性にみられる糖尿病で、妊娠中に分泌されるホルモンがインスリン抵抗性を引き起こすことが原因である (2)。これを補うほどのインスリン分泌が起こらない場合に GDM となる。

  • 妊娠糖尿病は 2 型糖尿病 のリスクファクター であり、子供の健康にも影響する (3I)。
  • 逆に 2 型糖尿病の family history、肥満、母親の年齢、人種などが GDM のリスクファクターである (6I)。

糖尿病の症状

糖尿病の症状は多岐にわたる (図は Public domain)。


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インスリン抵抗性とは

膵臓の β 細胞で作られるホルモンであるインスリンは、細胞へのグルコースの取り込みを促進し、血糖値を低下させる作用がある。

糖尿病の多くは、インスリンの絶対的または相対的な不足が原因である (1)。中には、インスリン拮抗ホルモンの増加による特殊な例も存在する。

糖尿病に関係する遺伝子

遺伝子 説明 文献
CDKAL1 3I
CDKN2A/2B   3I
TCF7L2

T2D だけでなく、メキシコ人女性の GDM とも相関している (3R)。 Wnt signal に関わる転写因子。

3I

FTO

Fat mass and obesity-associated gene。非常に多くの報告があるが、イントロンの SNP が肥満と最もよく相関しており、この遺伝子自身が原因なのかどうかについては議論がある。

4
GCK   3I
MTNR1B   3I
HHEX   3I
Insulin

IGF2 とゲノム上で近傍にあり、これらの遺伝子がある 11p15.5 領域が糖尿病のリスクと相関している (5R)。

IGF2 とくに IGF2 3' UTR にある SNP が糖尿病と関係。 5R
IGF2BP2   3I
KCNJ11   3I
     
KCNQ1

T2D だけでなく、メキシコ人女性の GDM とも相関している(3R)。Voltage-gated potassium channel で、なぜ糖尿病と関わるのか不明。

3I
     
     
SRR   3I
SLC16A11
  • 膜貫通タンパク質で、Mexican から 5 つの SNP が同定された。
  • African, European では少ない SNP で、これが今まで報告がない理由かも。
  • 古代人のゲノムから、いつこの SNP が生じたかも考察している。
  • ER タンパク質、肝臓、salivary gland, thyloid で発現が高い。
  • とりあえず発現させ、300 個の代謝産物についてメタボローム解析すると、肝臓で脂質量が増えていた。
5R
SLC30A8   3I
TCF2   3I

糖尿病の原因

糖尿病には多数のリスクファクターが存在する。

人種

> African Americans は他の人種よりも高血圧になりやすい傾向がある (4)。

> Hispanic Americans は糖尿病および腎臓疾患の罹患率が高い (2,4)。

  • しかし、なぜか動脈系疾患による死亡率が低い (4)。これは Hispanic paradox として知られている。
  • 肥満や糖尿病率が高いのは、遺伝的要因もあるが生活習慣による部分が大きい。
  • とくに、糖分を多く含んだソフトドリンクの消費量が多い。そこから摂取するカロリーは白人の 2 倍。
  • DHA, EPA など omega-3 PUFA の摂取量が少ない。

> T2D、GDM, BMI の遺伝マーカーを、750 人のメキシコ人妊婦で調べた論文 (3)。

  • 176 SNPs for 115 loci と、118 の Ancestry Informative Markers (AIM) を調べている。
  • 共通のものも、そうでないものもあった。
  • T2D のリスクファクターとしてよく知られている TCF7L2, KCNQ1 という haplotype は GDM とも相関。T2D と GDM には共通の機構があると考えられる。
  • しかし、T2D のリスクファクターである SLC16A11 の変異と GDM との関係は見えず、異なる機構もあると考えられた。

遺伝率

「糖尿病は 80% 遺伝」と言われることがある。この言い方は誤解を招きがちなので、あまり好きではない。とりあえずいくつか文献を。


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References

  1. 井村 2008a (Book). 進化医学からわかる肥満・糖尿病・寿命. 岩波書店.
  2. Diabetes. NIH website. Link.
  3. Huerta-Chagoya et al. 2015a. Genetic determinants for gestational diabetes mellitus and related metabolic traits in Mexican women. PLoS ONE e0126408.
  4. Yracheta et al. 2015a. Hispanic Americans living in the United States and their risk for obesity, diabetes and kidney disease: genetic and environmental considerations. Postgrad Med, 127, 503-510.
  5. The SIGMA type 2 diabetes consortium 2014a. Sequence variants in SLC16A11 are a common risk factor for type 2 diabetes in Mexico. Nature 506, 97-101.
  6. Alharbi et al. 2014a. Insulin Receptor Substrate-1 (IRS-1) Gly927Arg: Correlation with Gestational Diabetes Mellitus in Saudi Women. BioMed Res Int 146495.

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