統合失調症の診断

UBC/immunology/sz_diagnosis

このページの最終更新日: 2024/02/14

  1. 予防の重要性と早期診断の指標
    • 認知能力の低下
    • 喫煙、飲酒、薬物の乱用

  2. 統合失調症の診断 (早期診断・予防以外)
    • DSM
    • PANSS (陽性・陰性症状評価尺度)

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予防の重要性と早期診断の指標

統合失調症は、思春期から青春期にかけて発症することが多い。これは、この時期に診断によって正式に「統合失調症である」と認められるということである。しかし、診断の前から統合失調症の兆候がみられることも多く、これを指標にして発症前のリスクを評価し、予防的な治療を試みることが望まれている。

統合失調症の患者は 約 5% が自殺する というデータもあり (1)、自殺の多くは発症直後にみられる。これも早期診断が重要な理由の一つである。

以下、発症前から現れる症状ごとにまとめる。多くは統合失調症患者やその周辺の人々 (親、教師など) に対する聞き取りからのデータである。


認知能力の低下

認知能力の低さと、統合失調症のリスクが相関することを示した報告は複数ある。

> Working memory, visual learning が低いとするメタアナリシス (2)。
  • 精神病のリスクの高い集団を追跡調査し、発症した人としなかった人を比較している。95 の報告を調べたメタ・アナリシスである。
  • CHR-C (clinical high-risk converter, 結果的に発症した人), CHR-NC (non-converter, しなかった人)。
  • いくつかの行動試験のうち、CHR-C は working memory task, visual learning で成績が悪かった。これらの試験の結果から、発症のリスクを見積もることが可能であろうという結論。

喫煙、飲酒、薬物の乱用

統合失調症患者における 喫煙者、アルコール依存症患者、薬物使用者などの割合は健常者に比べて著しく高い。ただし、因果関係がまだはっきりしていない という問題がある。

注目すべき仮説の一つが self-medication hypothesis で、とくに喫煙との関連で強調される仮説である。タバコに含まれるニコチン、アルコール などが統合失調症の症状を軽減させるため、結果としてこれらを使う率が高くなるという考え方。

> 精神疾患と大麻の使用には、両方向の因果関係があるという論文もある (3)。

画像診断 - 脳の異常

> Lateral ventricle の肥大は出生前から観察され、出生後サイズと相関する (4)。
  • 脳室 ventricle の肥大は、統合失調症でみられる典型的な異常の一つである。これを指標にリスクを評価できるかもしれない。

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統合失調症の診断 (早期診断・予防以外)

MRI などの画像診断も研究レベルでは積極的に取り入れられているが、統合失調症の診断は依然として行動異常を指標にしたものである。


DSM

DSM はアメリカ精神医学会による診断基準である。Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorder の略。


PANSS

PANSS とは Positive and Negative Syndrome Scale の略で、Kay ら (1991) によって作成された評価尺度である。30 項目で構成されており、その内訳は陽性尺度 7 項目、陰性尺度 7 項目、それに総合精神病理尺度 16 項目からなっている。

PANSS スコアを用いて薬の効果を検証した論文 (4)。

  • Haloperidol, olanzapine, quetiapine, risperidone, zuclopenthixol, Mood stabilizers, benzodiazepines, anticholinergics を 8 週間投与している。
  • さらに contrast hypersensitivity も改善したが、higher-level motion processingは変わらず。

ASEBA

Achenbach System of Empirically Based Assessment (ASEBA) は統合失調症の診断ではなく、メンタルヘルスや行動を総合的に評価するツールであるが、とりあえずここに合わせて記載しておく (6)。

ASEBA は幼児および学齢児のための Child Behavior Check List (CBCL) と、成人および高齢者のための Adult Behavior Check List (ABCL) に大別され、CBCL はさらに以下のように細分化されている (5)。アメリカの心理学者 Achenbach らが考案したテストである。日本語版もあり、2000 年以降に標準化が行われている。


CBCL

CBCL/1 1/2-5

数字は 1 歳半から 5 歳児用という意味。保護者が記入する。

CBCL/6-18

学齢児用、保護者が記入する。

C-TRF

Caregiver-teacher report form、保育士が記入する。

TRF

Teacher's report form、教師が記入する。

YSR

Youth self-report、11 歳以上に適用され、本人が記入する。

ABCL

成人用。


Achenbach によるレビューもあったので、一部引用しておく (7)。

回答は リッカート尺度 である。つまり以下の 3 段階。

  • あてはまらない = 0
  • やや又は時々あてはまる = 1
  • よく又はしばしばあてはまる = 2

質問は以下のように「問題がある」行動を聞くスタイルなので、高いスコアが並ぶほど、その対象者に問題がある可能性がある。

  • 怒りっぽい
  • 普段と少しでも違うと動揺する
  • 動物を虐待する

質問は全部で 100 (就学前の児童向け) または 120 (就学後) 項目あり、質問の内容に応じて項目が以下のように分類されている。一部のみを掲載しておく。これらは「下位尺度」と呼ばれる。さらに、いくつかの下位尺度を合計し、「内向尺度」「外向尺度」という指標も計算される。

  • 情緒反応
  • 不安/抑うつ
  • 身体愁訴
  • 攻撃的行動

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References

  1. Palmer et al. 2005a. The lifetime risk of suicide in schizophrenia. Arc Gen Psychiatry 62, 247-253.
  2. De Herdt et al. 2013a. Neurocognition in clinical high risk young adults who did or did not convert to a first schizophrenic psychosis: a meta-analysis. Schizophr Res 149, 48-55.
  3. Griffith-Lendering et al. 2012a. Cannabis use and vulnerability for psychosis in early adolescence - a TRAILS study. Addiction 108, 733-740.
  4. Gilmore et al. 2008a. Prenatal mild ventriculomegaly predicts abnormal development of the neonatal brain. Biol Psychiatry 64, 1069-1076.
  5. 船曳、村井 2017a. ASEBA 行動チェックリスト (CBCL/11⁄2- 5 :保護者用および C-TRF: 保育士用) 標準値作成の試み. 児童青年精神医学とその近接領域 5, 713─729.
  6. CBCL 子どもの行動チェックリスト. Link: Last access 2020/11/03.
  7. Achenbach, 2019a (Review). International findings with the Achenbach System of Empirically Based Assessment (ASEBA): applications to clinical services, research, and training. Child Adolesc Psychiatry Ment Health 13, 30.

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