後天性免疫不全症候群 AIDS: 感染経路、症状、診断と治療

UBC/immunology/aids

このページの最終更新日: 2024/02/14

  1. 概要: AIDS とは
  2. 感染経路
  3. 症状
    • HIV 感染初期
    • エイズ発症後
  4. 診断と治療
    • 診断
    • 治療

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概要: AIDS とは

後天性免疫不全症候群 (acquired immune deficiency syndrome; AIDS) は、免疫能の低下により合併症を発症した状態 (または発症しやすい状態 - 複数の定義がある模様) である。免疫能の低下は、HIV (human immunodeficiency virus) という ウイルス に感染することによって引き起こされる。

HIV に感染していても、免疫能が正常に保たれていれば AIDS とは呼ばない (潜伏期間)。しかし、この状態でも他人を HIV に感染させることができる。


  • A disease of humans characterized by defective cell-mediated immunity and increased susceptibility to infections. It is caused by the retrovirus HIV (human immunodeficiency virus). This infects and destroys helper T cells, which are essential for combating infections (1).

感染経路

血液 blood による感染、母子感染、性行為による感染の 3 つの経路がある (1)。血液感染は、麻薬など静脈注射の濫用による感染、血液製剤による感染などに分けられている場合もある (2)。

> 日本では、性行為による感染がもっとも多い (2)。

  • 最近は HIV 感染者数が増加傾向にある。

> HIV にはタイプ 1 とタイプ 2 がある (2)。

  • タイプ 1 は全世界に広がっており、2 は西アフリカ限定。
  • 日本の感染者はほぼタイプ 1 である。タイプ 2 の方が症状が軽い。

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症状

HIV 感染初期

HIV ウイルスに感染した直後には、50-90% の患者が 急性レトロウイルス症候群 と呼ばれる以下のような症状を経験する (2)。

  • 発熱: 急性感染者の 80-90% でみられる (2)
  • 発疹: 40-80% (2)
  • 咽頭炎: 50-70% (2)
  • 筋肉痛、関節炎: 50-70% (2)

この時点で検査を受けることが望ましいが、これらの症状は一過的であり、見逃されやすい。次に体調の変化が起こるのは、免疫能が破壊された AIDS 状態であることが多い (2,3)。


エイズ発症後

免疫能が低下する速度には個人差があるが、一般に感染者の CD4-positive な細胞は 40-80 cells/mm3/year の速度で減少する (2)。一般に、CD4-positive な細胞の正常値は 800-1050 cells/mm3 である (2)。

免疫力が低下すると様々な疾患が現れるが、23 のエイズ指標疾患 が定義されている (2)。

ADM

Kaposi 肉腫、非 Hodgkin リンパ腫、原発性脳リンパ腫、浸潤性子宮頸癌の 4 つの悪性腫瘍をいう (8)。これらはエイズ患者に特有のものとされ、AIDS-defining malignancies (ADM) と呼ばれる。

Malignancies のかわりに cancer を使い、ADC と呼ぶこともある。

原因は、いずれもエイズ以外のウイルスで、それぞれ human herpes virus 8 (HHV-8), Esptein-Barr virus (EBV), human papilloma virus (HPV) および EBV による。

NADM

ADM に対して、エイズの診断とは関連しない悪性腫瘍は、Non-AIDS defining malignancies (NADM) と呼ばれる。

ただし、エイズ患者は NADM のリスクも増大するという報告もあり (2)、

診断と治療

全体として、AIDS の患者数は増加傾向にあるが、有効な治療法が開発されており、AIDS は以前のように常に致死的な病気ではなくなってきている (7)。ただし、HIV は宿主ゲノムの中に入り込むので、AIDS の完全な治療 (HIV の完全な除去) はいまだ不可能である。

診断

治療

血中 HIV ウイルス量をできるだけ低く保つことが重要である (2)。HIV が増殖するメカニズムの様々な点をターゲットとした 抗 HIV 治療薬 が使われている。


逆転写酵素阻害剤
プロテアーゼ阻害剤
インテグラーゼ阻害剤
侵入阻害剤
抗 HIV 抗体

HIV はヒトの抗体に認識されにくく、ゆえに HIV をワクチンとして使うことは一般に難しい (4)。Berg の Biochemistry には、HIV に結合する抗体 b12 および 2G12 が紹介されている。どちらも特殊な高次構造をもつようである。

ゲノム編集
  • ZFN というゲノム編集技術によって、HIV 感染の標的となる受容体 (CD4?) をノックアウトした例がある (5)。侵入阻害の一種であると言える。
  • Modified T-cells infusion による HIV の治療が Sangamon BioSciences で検討されている (6)。

これらの薬によって HIV 感染者の予後は劇的に改善している (2)。たとえば、2000 年以降の治療を受けている 25 歳の患者では、肝炎合併がなければ余命は 40 年近くも見込める (8)。エイズ発病前に治療を受ければ、エイズで死亡することはほぼなくなったと言っても良いほどのようだ (8)。

複数の抗 HIV-1 薬を患者の症状・体質に合わせて投与し、AIDS の発症を防ぐ治療法を highly active anti-retroviral therapy (HAART) と呼ぶ。英語を文字通りに解釈すると、レトロウイルス全般に適用される言葉に思えるが、実際には抗 HIV 治療に限定して使われる。

HIV 治療薬のターゲットなど (9)。

HIV治療薬のターゲットなど

その他 AIDS に関するメモ


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References

  1. Amazon link: Hine (2015). Oxford Dictionary of Biology.
  2. 本田 2012a. HIV/AIDS 感染症の現状と展望. 日耳鼻 115, 759-766.
  3. Fauci et al. 1996a. Immunopathogenic mechanisms of HIV infection. Ann Intern Med 124, 654-663.
  4. Amazon link: ストライヤー生化学: 使っているのは英語の 6 版ですが、日本語の 7 版を紹介しています。参考書のページ にレビューがあります。
  5. Cyranoski 2015b (News). Embryo editing divides scientists. Nature 519, 272.
  6. Lanphier et al. 2015a. Don't edit human germ line. Nature 519, 410-411.
  7. White et al. 2015a (Review). The CRISPR/Cas9 genome editing methodology as a weapon against human viruses. Discov Med 19, 255-262.
  8. 岡 2015a. 第 112 回日本内科学会講演会. ウイルス感染と腫瘍 5) HIV感染症と癌.

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