水のイオン積と pH: 生化学的な解説

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2018/01/19 更新

  1. 水の解離とイオン積
  2. pH とは
  3. pH に関する様々な話題
    • 酸性溶液が生物に与える影響
    • 温度が上がると pH は下がる


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酸・塩基についての項目は、以下の 5 つのページにまとまっている。体系的に学びたい人は、以下の順に読むことをお勧めする。

  1. 質量作用の法則と平衡定数
  2. 酸・塩基の定義
  3. 水のイオン積と pH (このページ)
  4. 解離定数
  5. 緩衝液 buffer について

水の解離とイオン積

ブレンステッド・ローリーの 酸・塩基の定義によると、水 H2O というのが特殊な物質であることがわかる。水は

H2O ⇌ H+ + OH-

と電離するので、酸でも塩基でもある物質と言える。ここではまず、水の解離 dissociation と pH について考えてみる (1)。

水の解離

水の解離の式について、平衡定数 K を考える。これは解離反応なので、K は解離定数でもある。



このとき、質量作用の法則と平衡定数 のページにあるように、K は温度と圧力だけの関数 になる。

  • 水 H2O はかなり安定な分子で、H+ と OH- に解離している分子の割合はわずか 1.8 x 10-9 である (1)。→ どうやって求めた値なのか?
  • 水の分子量は 18 なので、1リットルの水は 1000 ÷ 18 = 55.56 モルである。つまり上の式で [H2O] = 55.56 である。
  • この 2 つの値から [H+] と [OH-] も算出できる。55.56 x 1.8 x 10-9 = 1.0 x 10-7 である。

以上の値から解離定数 K を算出すると、K = 10-7 x 10-7 /55.56 = 1.8 x 10-16 mol/L となる。繰り返すが、この値は温度と圧力のみの関数である。


イオン積

ここで一つの仮定をおく。一般に、生化学での式変形は「法則に当てはめる → 何かを仮定して変数を減らしたりする → さらに式変形できるようになる → 意味のある形が得られるまでこれを繰りかえす」 というのが原則である。

ここで導入する仮定は、水の濃度が非常に大きいので、一定と仮定できる というものだ。ここから何が導けるだろうか?


この仮定から、イオン積 ion product という 新たな定数が導ける ことになる。式変形は単純で、両辺に [H2O] を乗じるだけである。つまり、

K x [H2O] = [H+] x [OH-] = 1.00 x 10-14 = 一定


である。この K x [H2O] をイオン積といい、一般に KW で表す。単位は (mol/L)2 である。[H2O] は本来変数であるが、一定と仮定しているので、イオン積も定数になる。

イオン積という概念のメリットは、薄い強酸、強塩基の濃度から pH を推定できるようになる ことである。まず次の pH の項目を読み、イオン積を対数で表してから、実際の例に進む。


pH とは

pH とは、[H+] の log の負の値である (1)。底は 10 であるため、[H+] = 10-7 の水の場合には、


pH = -log[H+] = -(-7) = 7


となる。p は英語の power である。

イオン積の式の対数をとると、


logKW = log[H+][OH-] = log10-14

したがって、

pH + pOH = 14


という非常にシンプルな式が導けることになる。


イオン積の使い方

2.0 x 10-6 mol/L の KOH 溶液があるとする。KOH は強塩基なので、全てが K+ と OH- に解離していると仮定してよい。

  • このとき、KOH 由来の OH- の濃度は 2.0 x 10-6 mol/L である。
  • KOH の存在は水の解離には影響を与えないので、水由来の OH- の濃度は 1.0 x 10-7 mol/L である。
  • よって、全体の OH- の濃度は 2.1 x 10-6 mol/L となる。
  • pOH = -log (2.6 x 10-7) = -[log(2.6) + log(10-6)] = -(0.41-6) = 5.56

ここでイオン積が活躍する。

pH = 14 - 5.56 = 8.44

である。以上のように 濃度から pH を算出することができる。ただし、これは KOH が溶液中で完全に解離しているとの仮定のものと計算であることを忘れてはいけない。

ここを理解したら、次は 解離定数のページ で酸・塩基の重要な概念、pKa を学ぼう。


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pH に関するさまざまな話題

酸性溶液が生物に与える影響

酸性溶液は有害であるが、具体的にどういうメカニズムで生体にダメージを与えるのだろうか? 重要な点の一つは、細胞外 pH を細胞内 pH を区別することである。


> 揮発性の短鎖 脂肪酸細胞膜 を透過し、直接細胞内 pH を下げる (2)。
  • Butyrate, propionate, acetate など。
  • これらの脂肪酸は発酵 fermentation の結果生じるので、自然界に存在する acid stress である。

> 細胞外 pH の低下は、そこに存在する弱酸 acetate などを非解離状態にする (2)。
  • 非解離状態の方が電荷が弱いので、細胞膜を通過しやすい。
  • 結果として、より多くの酸が細胞に入ってしまう。上記の現象を加速させるといっても良い。

> バクテリアは、アミノ酸デカルボキシラーゼでアミノ酸と H+ を反応させる (2)。
  • H+ を消費するための反応で、低 pH に対する応答 である。
  • サルモネラでは Lys + H+ でカダベリン cadaverine が作られる。
  • カダベリンは、トランスポーターによって細胞外のリシンと交換される。
  • 大腸菌は グルタミン酸 と H+から GABA を、アルギニン と H+ から agmatine を合成する。

pH と温度

温度は pH に影響する。

水の解離は吸熱反応であるため、温度が上がると解離が進み、H+ の濃度が上がる。すなわち pH は下がる。HEPES の場合も、温度が上がるほど pH は低下する (2)。


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References

  1. Amazon link: 平尾, 加藤 1988. 化学の基礎 分子論的アプローチ (KS化学専門書).
  2. Bearson et al. 1997a (Review). Acid stress responses in enterobacteria. FEMS Microbiol Lett 147, 173-180.
  3. 同仁堂ウェブサイト. Link.

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