生体のエネルギー通貨 ATP:
構造、代謝、GTP との違いなど

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2018/10/05 更新


  1. 概要: ATP とは
    • なぜ ATP を「エネルギー通貨」というのか?
  2. 好気代謝・嫌気代謝でグルコース 1 分子から作られる ATP の数
  3. ATP とタンパク質のリン酸化

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概要: ATP とは

ATP (アデノシン三リン酸, adenosine triphosphate, 図, ref 2) は、生体のエネルギー通貨として使われる物質である。リン酸基が 2 個および 1 個になったものを ADP および AMP という。


核酸の概要 のページにあるように

  • ヌクレオシド nucleoside = ペントース + 塩基
  • ヌクレオチド nucleotide = ペントース + 塩基 + 1 個以上のリン酸
  • 核酸 = ポリヌクレオチド

であるので、ATP はヌクレオチドにあたる。構成要素はリボース ribose、塩基のアデノシン adenosine および 3 つのリン酸基 triphosphate unit である。


その他 ATP 関連事項

ATP は、細胞内で Mg2+ や Mn2+  と結合しており、これが active form (1)。

リン酸基が外れるときに得られる自由エネルギーは他のものでも同じだが、ATP が最も使われる。しかし、アデニンでなく他の塩基が結合したヌクレオチドもエネルギー通貨として使われることがある (1)。GTP - GDP - GMP, UTP - UDP - UMP, CTP - CDP - CMP など。

Diphosphate をリン酸化する酵素を nucleotide diphosphate kinase という。NDP + Pi → NTP。

補酵素 NAD+FAD は ATP の誘導体である (1)。


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なぜ ATP は「エネルギー通貨」と言われるのか?

ATP のもつ自由エネルギー free energy が、その加水分解産物である ADP + Pi よりもかなり大きいためである (1)。

たとえば、グリセロール-3-リン酸がグリセロール glycerol と Pi に分解される時に放出されるエネルギーは 9.2 kJ/mol であるが、ATP が ADP と Pi になるときには 30.5 kJ/mol のエネルギーが放出される (1)。 これは、ATP よりも ADP, Pi がかなり安定なためである。その理由は以下の 3 つ。

  1. ADP と Pi は共鳴構造をとって安定化する。つまりエネルギー準位が構造から予測されるよりも低くなっている。
  2. ATP は 3 つ並んだリン酸基同士で電気的な反発がある。これが末端のリン酸基の解離に伴って解き放たれる。縮んでいるバネのようなイメージ。
  3. ATP, ADP, Pi とも水和により安定化するが、構造的に ATP がもっとも水和されにくい。

ところで、ATP よりもリン酸基の解離に伴う自由エネルギーが大きい = phosphoryl group を手放しやすい物質が生体内に存在する (1)。このような物質は、逆に ADP から ATP を合成することができる。

加水分解されるときに放出されるエネルギーを、高い順に以下の表にまとめる。


分子

説明 エネルギー

ホスホエノールピルビン酸
(PEP)

解糖系 glycolysisグルコースピルビン酸 に変換する過程で 2 分子の ATP を生み出す。その反応が、PEP および下の 1,3-BPG から ADP へのリン酸基の転移である。

これは、両分子からリン酸基が解離する際に放出される自由エネルギーが、ATP からのリン酸基脱離に伴うそれよりも高いために起こる反応である。

-61.9 kJ/mol (3)

カルバモイルリン酸
Carbamoyl phosphate 

尿素回路 の中間体。

-51.4 kJ/mol (3)

1,3-ビスホスホグリセリン酸 (1,3-BPG)

PEP と同じく、解糖系の中間体である。

-49.3 kJ/mol (3)

クレアチンリン酸
Creatine phosphate

クレアチン creatine がリン酸化されたクレアチンリン酸は高エネルギー分子。

筋肉や脳 brain における ATP 再生のメカニズムである。

-43.1 kJ/mol (3)

ATP → AMP + PPi
ATP → ADP + Pi

ATP が AMP になるときには 32.2、ADP になるときには 30.5 kJ のエネルギーが放出される。

無機ビスリン酸 PPi の加水分解エネルギーは-19.2 kJ/mol である (3)。

-32.2 & -30.5 kJ/mol (3)

その他

  • Glucose-1-phosphate: -20.9 kJ/mol
  • Fructose-6-phosphate: -15.9 kJ/mol
  • Glucose-6-phosphate: -13.8 kJ/mol
  • Glycerol-3-phosphate: -9.2 kJ/mol

嫌気代謝・好気代謝でグルコース 1 分子から作られる ATP の数

嫌気代謝ではシンプルで、グルコース 1 分子から 2 分子の ATP が作られる。これは、以下の解糖系の概要図を見ればわかりやすい。図は 細胞の分子生物学 (Amazon) から引用した。


最初に 2 分子の ATP が消費されるが、結果として 4 分子の ATP が作られるので、差し引きで +2 となる。

一方、好気代謝の方は複雑であり、どの経路を想定するかによって数が変わってくる。そのため、私はこの数の比較はあまり好きではない。

> 高校レベルでは、38 分子が正解とされているようである (4)。
  • 解糖系で 2 分子の ATP と 2 分子の NADH。
  • ピルビン酸の脱炭酸で 2 分子の NADH。
  • TCA 回路で 6 分子の NADH および 2 分子の FADH2
  • 以上より NADH は 10 分子 = 30 x ATP 相当。FADH2 は 2 分子 = 4 ATP 相当。これは古典的な当量の計算方法。
  • TCA 回路で生じる 2 分子の GTP から ATP が 2 分子作られる。

実際の代謝を考える際には、以下の点を考慮する必要がある。

  • 解糖系で合成された NADH は細胞質にあるため、ミトコンドリア への輸送でエネルギーを消費する。具体的には FADH2 として電子伝達系に至る (参考: グリセロリン酸シャトル)。
  • ATP 合成酵素の回転は、1 個のプロトンあたり 3/10 回転らしい。

最近の教科書では、NADH 10 分子が 25 x ATP、FADH2 2 分子が 3 x ATP として、合計 32 分子の ATP が作られるとしている (3)。これは、グリセロリン酸シャトルを考えていない状態である。


ATP とタンパク質のリン酸化

ATP は細胞のエネルギー通貨である以外に、タンパク質 protein がリン酸化修飾 phosphorylation される際にリン酸基を供与するという役割もある。これによって、細胞のエネルギー状態と代謝調節がリンクされている。

ここでは、リン酸化、リン酸化酵素 kinase、脱リン酸化酵素 phosphatase についてまとめる (1)。適切なページを作ったら、適宜内容を移動する。

  • Kinase は ATP の末端のリン酸基を基質につけかえる。Phosphatase はリン酸基を外すが、それは ADP に戻るわけではなく、遊離の無機リン酸 Pi, orthophosphate になる。
  • タンパク質に付加されたリン酸基は、2 価の negative charge を与える。これは構造変化の原因となる。
  • リン酸化されるのは、一般に細胞内のタンパク質である。ATP や kinase が細胞内にあるため。細胞外タンパク質は proteolytic cleavage などによって活性を制御されている。

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References

  1. Berg et al. 2006a. (Book). Biochemistry, 6th edition.

  1. By NEUROtiker - Own work, Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=2194476
  2. Amazon link: ストライヤー生化学: 使っているのは英語の 6 版ですが、日本語の 7 版を紹介しています。参考書のページ にレビューがあります。