ドーパミン: 構造、機能、作用、代謝など

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このページの最終更新日: 2024/02/14

  1. 概要: ドーパミンとは
  2. ドーパミンの生合成
  3. 神経伝達物質としてのドーパミン
  4. ドーパミン作動性ニューロン
  5. その他メモ

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概要: ドーパミンとは

ドーパミン dopamine は カテコールアミン catecholamine の一種で、名称は前駆体のドーパ DihydrOxyPhenylAlanine に由来する。フェニルアラニン および チロシン からドーパが合成され、デカルボシキラーゼによってドーパミンになる。医療分野ではドパミンと表記するが、このサイトではドーパミンを用いる。

ドーパミンの構造

ドーパミンは記憶・情動に大きな役割を果たし、快感や多幸感を与える作用 がある (1)。かつては自発運動 locomotor activity と報酬 reward に重要であるとされたが、近年では 報酬への期待との関係が重要視されている (8I)。

"prediction of reward with the motivation to procure the reward and with the facilitation of conditioned learning"

ドーパミン作動性ニューロンは、報酬系 reward system だけでなく、生存に必要な努力 (食事など) を継続的に行う活動も支配している (2)。

神経 neuron での作用がよく研究されており、肥満 obesity、過食、アルコール中毒、麻薬中毒、統合失調症 schizophrenia、パーキンソン病 Parkinson's disease などとの関係も知られている。

ドーパミンの生合成

ドーパミンは、L-チロシン から合成される。まず、チロシン水酸化酵素 tyrosine Hydoxylaseが チロシンから L-Dopa を作り、次に芳香族アミノ酸脱炭酸酵素 (aromatic L-amino acid decarboxylase、AADC) がドーパミンを作る。ドーパミンは小胞モノアミントランスポーター (vesicular monoamine transporter, VMAT) によってシナプス小胞に取り込まれ放出を待つ。シナプス間隙からのドーパミンの回収は、ドーパミントランスポーター DAT により行われる。


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神経伝達物質としてのドーパミン

ドーパミン (DA) 分泌には、以下の 2 つのモードがある。

  1. DA neuron burst firing による一過性の分泌。Reward prediction, incentive salience に関係しているとされる。
  2. DA neuron の基本的な活性 basal activity による、持続的な少量分泌。バックグラウンドレベルの DA neuron の活性を決定する。

「ドーパミンは神経伝達物質であるが、グルタミン酸 Glu などのように早いシナプス伝達を行うわけではない。むしろドーパミン受容体を介した遅い情報伝達を行い、シグナル伝達を引き起こす。」 という文献 4 の表現は、2 の chronic な作用を述べている。この作用のため、ドーパミンは neurotransmitter ではなく neuromodulator と表現されることもある。

ドーパミンの作用は、結合する受容体 (ドーパミン受容体) によって異なるのが特徴で、これがドーパミンの作用を複雑にしている。つまり、投射先の細胞における受容体発現パターンによって、ドーパミンが分泌された際に神経が活性化される場合と抑制される場合がある。詳細はドーパミン受容体のページを参照のこと。

ドーパミン受容体は G タンパク質 カップリング受容体 (GPCR) である。

ドーパミン神経は、このページの下で示すように 4 つの主要な経路をもっており、それぞれについて活性化・抑制が調べられているが、まだ十分な研究がなされていない状態である。

ドーパミン作動性ニューロン

神経伝達物質としてドーパミンを放出するニューロンを dopaminergic neuron といい、以下のような特徴をもっている。

  • 割合は極めて少なく、脳の全ニューロンの 10 万分の 1 以下である (4)。
  • Prefrontal cortex への 限定的な投射 も特徴的である。 進化的見地から見た脳のページでは、セロトニン作動性ニューロンとの分布の比較などから、ドーパミンが PFC の進化に関わってきたという仮説を紹介している。

その他のニューロンのタイプ

  • Glutamatergic neuron: グルタミン酸を放出する。
  • GABAergic neuron: 抑制性の神経伝達物質である GABA を放出する。

ヒトの脳では、

  1. 黒質 substantia nigra
  2. 腹側被蓋野 VTA

がドーパミンの主な供給源である。 2 はふくそくひがいやと読み、ventro-tegmental area, VTA と表記される。つまり、これら場所に、他の領域に投射しているドーパミン作動性ニューロンが集中して存在する。

ドーパミン作動性ニューロンの分布

Substantial nigra および VTA からのドーパミン神経の投射は、主に以下の 4 つの経路に分けられる (4)。Substantial nigra からは striatum への限定的な投射があり、VTA からは nucleas accumbens、海馬 hippocampus および PFC の様々な部位に比較的広い投射がある。


Nigro-striatal pathway

  • 黒質 substantial nigra は中脳に存在し、メラニン色素に富むため黒く見える。ここのドーパミン作動性ニューロンは、大脳基底核 basal ganglia の一部である 線条体 に神経繊維を投射している (1)。 この経路が nigro-striatal pathway と呼ばれる。
  • Substantial nigra の神経が変性し、striatum のドーパミン量が低下することがパーキンソン病 Parkinson's disease の原因と考えられている (1)。
  • 肥満のヒトおよびげっ歯類では、線条体 striatum の D2 受容体の発現量が低い (6I)。

Meso-limbic pathway

  • Meso は 「中間、中央」 という意味の接頭辞である。脳の中央部にある VTA から、辺縁系 limbic system への投射経路なので、この名がついている。
  • VTA から olfactory tubercle, limbic system の一部に投射する経路。報酬系やそれに関連する学習に重要。コカイン、アルコール中毒にも関連。

Meso-cortical pathway

  • VTA から prefrontal cortex へ投射する経路。学習、記憶に関連する。この projection が、ヒトが高機能の PFC を獲得するに至った進化の原動力とする仮説もある (14)。
  • PFC は、VTA に投射を返している唯一の大脳皮質領域である (10)。 
  • ラットでは、substantial nigra から PFC への投射もある (10)。
  • PFC に DA を投与すると firing rate が低下する (9I)。他にもいくつか例が挙げられており、DA は抑制的に働いていると考えられる。

Tuberoinfundibular pathway

  • Periventricular and arcuate nuclei of hippocampus から、視床下部の median eminence へ投射する経路。上の図では、視床下部が全体的に示されており、詳細は省かれている。ドーパミンはここから下垂体へ輸送され、プロラクチンの分泌を阻害する。
  • この経路のドーパミンの活性が低いことが、様々な肥満モデルで明らかにされている (8I)。

その他メモ

  • シナプス間隙に放出されたドーパミンの代謝には、COMT (catechol-O-methyltransferase) と DAT (dopamine transporter) が関与している (7)。COMT はドーパミンの分解を、DAT は細胞内への取り込みを担う。
  • おいしい食事をとると、ドーパミンが線条体 striatum に放出される。その量は満足度と相関する (5)。このドーパミンは、報酬系 reward circuitry を活性化する。この刺激が繰り返されると、次第に臭いなどの食事に関連した刺激を強く受け取るようになる (習慣化)。
  • 食事に対する期待でも、ドーパミンが nucleus accumbens に放出される (8I)。Glutamatergic neuronからも、dopaminergic neuron にたくさん信号が入る (5)。
  • Tuberoinfundibular pathway の経路のドーパミンの活性が低いことが、様々な肥満モデルで明らかにされている (8I)。肥満のヒトおよびげっ歯類では、線条体 striatum の D2 受容体の発現量が低い (6I)。
  • 心筋梗塞などによる虚血 ischemia は脳を損傷させるが、回復過程でドーパミン系が活性化する (3I)。

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References

  1. Amazon link: 脳単―ギリシャ語・ラテン語 (語源から覚える解剖学英単語集 脳・神経編).
  2. Volkow et al. 2013a (Review). The addictive dimensionality of obesity. Biol Psychiatry 73, 811-818.
  3. Martin et al. 2013a. In vivo imaging of dopaminergic neurotransmission after transient focal ischemia in rats. J Cereb Blood Flow Metab 33, 244-252.
  4. Rondou et al. 2010a (Review). The dopamine D4 receptor: biochemical and signaling properties. Cell Mol Life Sci 67, 1971-1986.
  5. Volkow et al. 2011a (Review). Reward, dopamine and the control of food intake: implications for obesity. Trends in Cogn Sci 15, 37-46.
  6. Thanos et al. 2013a. Obese rats deficient leptin signaling exhibit hightened sensitivity to olfactory food cues. Synapse 67, 171-178.
  7. Dreher et al. 2009a. Variation in dopamine genes influences responsivity of the human reward system. PNAS 106, 617-622.
  8. Thanos et al. 2008b. Food restriction markedly increases dopamine De receptor (D2R) in a rat model of obesity as assessed with in-vivo µPET imaging ([11C] raclopride) and in-vitro ([3H] spiperone) autoradiography. Synapse 62, 50-61.
  9. Lavin et al. 2005a. Prenatal disruption of neocortical development alters prefrontal cortical neuron responses to dopamine in adult rats. Neuropsychopharmacology 30, 1426-1435.
  10. Uylings et al. 2003a (Review). Do rats have a prefrontal cortex? Behav Brain Res 146, 3-17.
  11. 八十島 & 小林 2006a (Review). 線条体のドーパミン神経伝達による行動制御. 実験医学 24, 2285-2293.
  12. "Dopamine Pathways" by NIDA - NIDA Research Report Series - Methamphetamine Abuse and Addiction[1]. Licensed under パブリック・ドメイン via ウィキメディア・コモンズ.
  13. "Catecholamines biosynthesis" by NEUROtiker - own work. Licensed under CC 表示-継承 3.0 via ウィキメディア・コモンズ.
  14. Lee & Goto 2015a (Review). Prefrontal cortical dopamine from an evolutionary perspective. Neurosci Bull 31, 164-174.
  15. "Dopamin - Dopamine" by NEUROtiker - 投稿者自身による作品. Licensed under パブリック・ドメイン via ウィキメディア・コモンズ.