CRISPR/Cas9: 急速に広まったゲノム編集技術

experiments/dna/crispr
7-21-2017 updated


  1. 最新情報のメモ
  2. 概要
  3. 免疫システムとしての CRISPR
  4. ゲノム編集技術としての CRISPR
    • Delivery の方法
    • Off-target mutation

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最新情報のメモ

普通のページは「概要」から始めていますが,CRISPR によるゲノム編集は進展が早い分野なので,最新のニュースなどをメモする欄をここに作りました。

  • マウスでは,遺伝病を実際に治療できたという論文が相次いでいる。
  • Biorxiv 上で論戦が続いているが,Shaefer et al. (2017) が検出した変異は マウス の strain の違いによる SNP であるという結論に落ち着く... かもしれない。対照群としての系統の選び方がまずかったということ (10)。
  • 2017 年 5 月,Nature Methods に off-target mutation が数千個もあったという論文が出る。Schaefer et al. Nature Methods 14, 547-548.
  • 2016 年 11 月,アメリカ国立衛生研究所 (NIH) が CRISPR を使った がん 治療の臨床研究を承認。アメリカでは最初の臨床試験。

概要

CRISPR/Cas9 とは,2010 年代に急速に普及したゲノム編集技術である。RNA-guided nuclease を用いるバクテリアの免疫システムを CRISPR/Cas といい,これがゲノム編集に応用されたものである (4)。


歴史的には,相同組み換え homologous recombination がゲノム編集の主な手段であった (4,9)。この手法はマウスで広く用いられてきたが,効率が低く (1 cell/106 - 109 cells; ref 9),またゲノム編集後の selection が必要であるなどの問題点があり,応用の範囲は狭かった。

相同組み換えの他に TALEN や ZFN といったゲノム編集技術が知られていたが,これらの方法ではタンパク質 protein が標的配列を認識するため,標的ごとに protein engineering が必要であった (4)。一方,CRISPR/Cas9 では single guide RNA (sgRNA) がワトソン・クリック塩基対の形成を通じて標的配列を認識する。RNA 合成は特定の配列を認識するタンパク質の合成よりもはるかに簡単である。そのため組み換え効率の上昇,実験の簡略化,特異性の増大などが成し遂げられ,CRISPR/Cas9 が広く用いられるようになった。


免疫システムとしての CRISPR

> 1987 年,CRISPR repeat という繰り返し領域が大腸菌のゲノム中で発見された (4,5R)。
  • この領域の spacer sequence が,ファージの配列に似ていた。
  • 実際に,バクテリアはファージの DNA を CRISPR repeat 中にもつことで抵抗性を獲得する。
  • ここから転写される CRISPR RNA (crRNA) が,侵入してきた phage を認識する。
     : Cas protein が phage の DNA を分解する。

原核生物には少なくとも 11 の CRISPR-Cas systems が存在し,type I, II, III に分けられている (4)。ゲノム解析から,古細菌の 90% およびバクテリアの 50% がこのシステムをもつと考えられている (7)。

Type II system が最もよく研究されており,ゲノム編集技術に応用されたのも type II である。Type II は,1 つのヌクレアーゼ (Cas9) と 2 種類の RNA を必要とする。一つは Cas を標的配列までガイドする crRNA であり,もう一つはその成熟および Cas9 のリクルートに必要な tracrRNA である。

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ゲノム編集技術としての CRISPR

CRISPR/Cas9 システムによるゲノム編集の概要は,以下の図 (6) のようになっている。重要なのは

  • sgRNA: tracrRNA と crRNA の機能を両方もつように作られた RNA (4)。
  • 認識配列の 3' 側にある PAM
  • 実際に DNA を切断するヌクレアーゼ Cas9

の 3 つである。

タカラバイオの受託解析では,CRISPR/Cas9 を利用したノックアウト細胞作成の受託解析の値段として 1 件あたり約 180 万円,参考納期として 4 ヶ月以上を見積もっている (3)。ノックイン,SNP 導入は「別途ご相談」となっており,技術的に難しいと思われる。



single guide RNA (sgRNA)

crRNA および tracrRNA を 1 本の RNA 鎖として合成したもの。ゲノムにハイブリダイズする領域は約 20 nt である (9)。

Protospacer-adjacent motif (PAM)

Cas9 は標的とする DNA に double-strand break を挿入するが,その際に 標的配列に 3' 側に PAM が必要である。 PAM は 3 塩基の配列で,その配列は Cas9 ortholog に特異的である。一般にゲノム編集に使われる Streptococcus pyogenes の Cas9 の PAM は 5'-NGG および 5'-NAG である (4)。

  • Cas9-crRNA-tracrRNA complex は,まずゲノム中の至るところにある PAM に結合し,Cas9 は DNA 二本鎖をほどき始める (9)。
Cas9

Cas9 は,DNA に double-strand break をもたらすヌクレアーゼである。詳細は Cas9 のページ にまとめる。


Cas9 によって DNA 切断 (DSB; double-strand break) が起こると,切断された DNA は内在の DNA 修復システムによって修復される。これには 2 通りの方法がある。これらは一般的な DNA 修復の仕組みなので,他のヌクレアーゼによって生じた DSB も同じように修復される (7)。


1. Non-homologous end joining (NHEJ)

切れた DNA の末端を直接繋ぐという修復方法で,Insertion および deletion の原因になる (4)。哺乳類細胞での主要な修復機構で,細胞周期に依存しない。Exsogenous DNA がないときに起こる (8)。


2. Homology-directed repair (HDR)

Homologous DNA sequence を修復に用いる (4)。S および G2 期に修復が行われることが多い。Exogenous DNA があるときに起こる (8)。


Delivery の方法

CRISPR/Cas9 によるゲノム編集は細胞内 (核内) のイベントであるため,外部から必要因子を細胞内に届ける ステップが必要になる。これは delivery と呼ばれる。一般的な遺伝子導入法と大差なく,以下のような方法が使われている。


ウイルス
エレクトロポレーション
Nucleofection
Lipofectamine
マイクロインジェクション

ゼブラフィッシュ,ショウジョウバエ,マウス,ラットの胚で使用例がある (4)。


Off-target mutataion について

CRISPR/Cas9 の臨床応用の際に大きな問題となるのが,予期しない部分にも変異が入ってしまう off-target mutation である (7)。sgRNA と標的 DNA 配列の間に,ミスマッチが許容されることが原因である。


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References

  1. Harris 2015a. Germline manipulation and our future worlds. Am J Bioethics 15, 30-34.
  2. Cyranoski & Reardon, 2015a. Chinese scientists genetically modify human embryos. Nature News.
  3. タカラバイオ 受託のページ. Link.
  4. Pellagatti et al. 2015a (Review). Application of CRISPR/Cas9 genome editing to the study and treatment of disease. Arch Toxicol 89, 1023-1034.
  5. Ishino et al. 1987a. Nucleotide sequence of the iap gene, responsible for alkaline phosphatase isozyme conversion in Escherichia coli, and identification of the gene product. J Bacteriol 169, 5429-5433.
  6. By ViktoriaAnselm - Own work, CC BY-SA 4.0, Link
  7. White et al. 2015a (Review). The CRISPR/Cas9 genome editing methodology as a weapon against human viruses. Discov Med 19, 255-262.
  8. Ishii 2015a (Review). Germ line genome editing in clinics: the approaches, objectives and global society. Brief Funct Genomics, published online.
  9. Hsu 2014a (Review). Development and applications of CRISPR-Cas9 for genome engineerging. Cell 157, 1262-1278.
  10. Wilson et al. 2017. The experimental design and data interpretation in ‘Unexpected mutations after CRISPR Cas9 editing in vivo’ by Schaefer et al. are insufficient to support the conclusions drawn by the authors. doi: https://doi.org/10.1101/153338

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