がんの定義と概要

cell/tumor/tumor_definition
がんに関する項目の上位ページです。
2018/05/09 更新


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  1. 言葉の定義: とくに Cancer と Tumor
    • 英語
    • 日本語
    • その他のがん関連用語
  2. がんの概要
  3. がんの原因
    • 遺伝子の変異
    • 遺伝的要因と環境要因

  4. がん細胞の代謝

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言葉の定義: とくに Cancer と Tumor

英語

Cancer

Cancer は病気のことである。その原因として細胞分裂 cell division の異常があり、この異常に増殖する細胞集団 (もしくは異常に増殖するという現象) が tumor または neoplasm と呼ばれる。

  • Any disorder of cell growth that results in invation and destruction of surrounding healthy tissue by abnormal cells (1).

つまり、がんは 細胞分裂の異常 に起因する異常の総称で、単一の病気ではない (2)。そのため、治療法も異常分裂している細胞の種類に応じて様々である。

Tumor = Neoplasm

Tumor はアメリカ英語の表記で、イギリス英語では Tumour と書く。Oxford 辞書 (1) では、単に "See neoplasm" と書かれている。

Oxford 辞書 (1) の項目名から、neoplasm と tumour は同じ概念であるように思われるが、説明文中に tumour という言葉が出てくるのが混乱を招いている。

  • Any new abnormal growth of cells, forming either a harmless (benign) tumour or a malignant one (1).

異常な分裂をする細胞が局所的に存在している場合は benign、転移している場合は malignant という (2)。転移に相当する単語は metastasis である。

日本語

がん・癌

コトバンクに複数の辞書の定義がある。しかし、コトバンクでは ガン = 腫瘍 としているものが多く、英語の cancer/tumor と必ずしも対応していないように思う。

世界大百科事典 第 2 版の解説が文献 1 のものに近く、日本語でもこのように考えるのが良いと思う。

癌を完全に定義づけることは難しいが、ひとまず次のようにいうことができる。すなわち、〈癌とは、多細胞生物の体の中に生じた異常な細胞が、生体の調和を無視して無制限に増殖し、他方、近隣の組織に浸潤したり他臓器に転移し、臓器不全やさまざまな病的状態をひき起こし、多くの場合生体が死に至る病気〉である。 癌は多細胞生物の病気であって、細菌やアメーバなど単細胞生物には癌はない。多細胞生物では、1 個の生殖細胞が分裂増殖し、さまざまな器官に分化し、全体として調和のとれた個体として活動している。


その他のがん関連用語

Benign
[binain]

腫瘍細胞が、発生した部分に局在している状態 (2)。すなわち転移していない状態のこと。

Malignant
[malignənt]

腫瘍細胞が他の組織に侵入している状態 (2)。

Metastasis
[mətæstəsis]

腫瘍細胞が 2 次的に新たな腫瘍細胞の集団を作ること (2)。


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がんの概要

概要を表にまとめる。がんは遺伝子の変異に由来し原則として genetic であるが、体細胞の遺伝子の変異が原因なので、遺伝しないという特徴がある。


種類 特徴
膵臓がん

リンパ節 lymph nodes や他の臓器に転移しやすく、最も予後の悪いがん。多くの患者は診断から半年以内に死亡し、5 年生存率は 5% 未満である (2)。

遺伝性膵臓がんの原因遺伝子として palladin が同定されている (2)。第二 exon にがんの原因となる変異がある。がん細胞は柔軟なほど他の組織に転移しやすい。Palladin は細胞の形態を維持する細胞骨格タンパク質の scaffold gene で、変異によって細胞の柔軟性が増してしまう。

膵臓がんの予後が悪いのは、すい臓が太い血管やリンパに囲まれていて転移しやすいこと、自覚症状があまりないこと、全摘出ができないことなどによる。

白血病

正常な血球生産を支えるシステムに異常が起こる病気である。慢性/急性、骨髄性/リンパ性と 4 種類に分類されている。

乳がん

乳がんは女性にもっともよくみられる浸潤性のがん invasive cancer の一種で、女性のがんの 16%、女性の浸潤性がんの 22.9% を占める。がんにおける死亡の 18.2% は乳がんである。

骨肉腫
Osteosarcoma

膝、肩などにできる骨のがんで、若年期および老年期に 2 つの発症ピークをもつのが特徴。痛みがあまりないために見過ごされやすい。患者の 60% は 18 歳未満であるというデータがあり,この年齢分布が他のがんとは異なる骨肉腫の特徴である。

少年期には症状があまり出ないため、悪化しやすい傾向がある。多くの場合,関節部分が膨らんでくることで、単なる関節痛とは区別される。

家族性の骨肉腫があることから,なんらかの遺伝子の関与が示唆されているが、詳細は不明な点が多い。

甲状腺がん

とりあえず 福島で甲状腺がんは増えているのか というページを作りました。

直腸がん

アメリカではがん関連死の第 2 位 (4)。


がんの原因

細胞の増殖を早めるような DNA の変異が直接の原因である (2)。DNA の変異の原因として、紫外線、発がん性物質 carcinogen、遺伝的要因などがある。

がん細胞には複数の変異があるのが一般的である。細胞の増殖を早めるような変異が一つ入ると、その細胞は体の中で大きな割合を占めることになる。活発な増殖は、さらなる変異のリスクを上げる (2)。このように、がんが 2 段階の変異によって生じるとする説を 2-Hits hypothesis という。最初の hit のあとに細胞が増殖する過程は clonal evolution と呼ばれる。

一般に、生体内で活発に分裂しているのは幹細胞 stem cell であることから、最初の変異は stem cell に入りやすい。このアイディアは「がんの stem cell 仮説」と呼ばれることもある。


遺伝子の変異

細胞分裂や DNA 修復に関係する遺伝子の機能に異常をきたすと、がんになる可能性がある。文献 2 では少なくとも 350 の遺伝子ががんに関連すると報告されており、総数は 2000 を超えると見積もられている。遺伝子のもともとの機能によって、以下のように分類されている。

Oncogenes

本来、細胞分裂を 促進する 遺伝子で、これらの機能が異常に増強された場合に、がんの原因となる。変異が入ってしまったものを oncogene、その前の状態を proto-oncogene という。がんの 90% は proto-oncogene の変異に由来する (2)。

種々の成長因子とそのシグナル伝達に関わるタンパク質のほか、DNA 修復、アポトーシス阻害などを通じて間接的に細胞分裂を促進する遺伝子も proto-oncogene に含まれる (3)。

言葉の定義に問題でもあるが、上記の「遺伝的背景」または「環境要因」によって proto-oncogene が活性化され oncogene になるとガンが発症すると言える。

2 セットある遺伝子の一方に gain-of-funciton の変異が生じると、細胞の異常増殖が起こる (1)。変異はがん化に対して dominant に働くと言える。

例: ATM, bcl-1, bcl-2, erb2, fos, jun, myc, ras, sis, src.

Tumor suppressor genes

本来、細胞分裂を 抑制する 遺伝子で、これらの機能が低下した場合にがんの原因となる。

がんの 10% が tumor-suppressor gene の変異によるという記述があるが (2)、p53 遺伝子 の変異は 50% のがんで見つかるという記述もあり (3)、このあたり確認が必要。

2 セットある遺伝子の一方に loss-of-funciton の変異が生じても、通常の場合、細胞の増殖を抑制する機能は維持される (1)。変異はがん化に対して dominant に働くと言える。

例: NF1, p53, RB, WT-1.


がんの原因となることが知られている遺伝子をいくつか挙げておく。

遺伝子
概要
BRCA

家族性乳がんと関係が深く、変異は 乳がん、すい臓がんなどの原因になる (3)。DNA 修復に関わる。

p53

Li-Fraumeni という症候群として知られる (3)。白血病、脳腫瘍などと関係している。

MSH2, MLH1

DNA 修復に関わる (3)。遺伝性大腸がんの原因遺伝子。

RB

家族性レチノブラストーマの原因遺伝子。細胞周期 を制御する遺伝子の一つ。

テロメラーゼ

テロメア領域を伸長する RNA (TERC) と酵素 (TERT) の複合体。テロメア長は長くても短くてもがんのリスクが上がる (5)。


遺伝的要因と環境要因

遺伝子の変異ががんの直接の原因であるが、「どうやってその変異が入るか」という問題がある。変異の原因は、しばしば遺伝的要因と環境要因の 2 つに分けて議論される。

「遺伝的要因」とは、oncogene または tumor suppressor gene の変異のことではなく、これらの変異が入りやすくなるような遺伝的多型 のことである。

具体的には、DNA 修復系の多型が挙げられる。細胞は、DNA の変異を修復するシステムをもっている。DNA 修復系の異常は、高い確率でがんをもたらす (2)。典型的な遺伝的要因で、がんが多発する家系の解析などからこのような遺伝子が同定されている。

「環境要因」は、oncogene または tumor suppressor gene に変異が入りやすくなるような環境要因のことである。一般に、遺伝よりも環境要因の方が大きいと考えられている。たとえば、日本人は一般にハワイ人よりもがんの罹患率が低いが、ハワイに移住するとがんの確率が上がる (2)。

以下のような環境要因が一般に知られている。


環境因子
概要
喫煙

肺がん lung cancer の発生と高い相関がある (2)。

紫外線
化学物質

発がん性物質 carcinogen のページにリストがある。

ウイルス


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がん細胞の代謝


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References

  1. Hine (2015). A Dictioonary of Biology.

  1. Amazon link: Pierce 2016. Genetics: A Conceptual Approach: 使っているのは 5 版ですが、6 版を紹介しています。
  2. Amazon link: 水島 (訳) 2015a. イラストレイテッド細胞分子生物学.
  3. Arshad et al. 2016a. Racial Disparities in Colorectal Carcinoma Incidence, severity and survival times over 10 years: A retrospective single center study. J Clin Med Res 8, 777-786.
  4. Aviv et al. 2017a. Mutations, cancer and the telomere length paradox. Trends Cancer 3, 253-258.

参考図書