脂質/脂肪 (lipid/fat/oil) の定義と概要

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このページの最終更新日: 2024/02/14

  1. 脂質の定義
  2. 脂質の分類
    • 構造による分類
    • 単純脂質、複合脂質および誘導脂質
    • 極性による分類: 中性脂質と極性脂質
  3. 脂肪酸
  4. 脂質の役割
    • エネルギー源としての脂質
    • シグナル伝達分子としての脂質
    • 緩衝材・断熱材としての脂質
    • 細胞膜成分としての脂質

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脂質/脂肪の定義

Lipid (脂質に相当)

脂質 lipid は構造に基づいて定義されているわけでなく、以下のように 水に溶けにくく、有機溶媒に溶けやすい生体分子 として定義されている。「脂肪」よりも範囲が広く、例えば細胞膜の構成成分であるリン脂質 phospholipid は、脂肪ではないが脂質に含まれる。

  • 水に溶けにくく、有機溶媒に溶けやすい、生体に存在する 'あぶら' 状の物質の総称。多種類の物質があるが、とくに脂肪酸の誘導体が大きな割合を占めている (8)。
  • Any of a class of organic compounds that are fatty acids or their derivatives and are insoluble in water but soluble in organic solvents. They include many natural oils, waxes, and steroids (1).
  • A fatty or waxy organic compound that is readily soluble in nonpolar solvent (e.g. ether) but not in polar solvent (e.g water). Its major biological functions involve energy storage, structural component of cell membrane, and cell signaling (2).
  • By definition, lipids are water-insoluble biomolecules that are highly soluble in organic solvents such as chloroform (7).
  • The lipids are a heterogeneous group of compounds, including fats, oils, steroids, waxes, and related compounds, that are related more by their physical than by their chemical properties. They have the common property of being relatively insoluble in water and soluble in nonpolar solvents such as ether and chloroform (9).

なお、セルロースなどの多糖類 (いわゆる食物繊維) は水溶性の低い生体分子であるが、有機溶媒にも溶けにくいので、脂質とは呼ばれない。また、ダイオキシンは水溶性が低い分子であるが、生物由来ではないので脂質ではない。

水溶性の低い生体由来の「低」分子という定義もみたことがあるが、上記のように水溶性と脂溶性で定義する方が簡潔で良さそうだ。

Yahoo 知恵袋の内容がひどいことは有名であるが、「加水分解することによって脂肪酸を生じる化合物」という定義が書かれていて、これは真っ赤なウソである (3)。


Fat (脂肪に相当)

一方で、脂肪 fat は トリアシルグリセロール (トリグリセリド, TAG, TG) のことを指す言葉のようである。

  • (Science: biochemistry) a triglyceride (lipid) that is usually solid at room temperature (2).
Oil (オイル)

Oil は上の 2 つと比べて植物的、非生物的、液体的な概念のようである。Fat と比べた場合の定義は以下の通り。

  • A slippery or viscous liquid or liquefiable substance not miscible with water (2).
  • Any of a group of liquid edible fats that are obtained from plants (2).
  • A type of fat which is in a liquid form at normal room temperature. (2).

脂質の分類

構造による分類

脂質は LIPID MAPS (LIPID Metabolites And Pathways Strategy) において以下の 8 種類に分類されている。本サイトでも、この分類法を踏襲する。

  1. 脂肪酸とそのエステル
  2. グリセロ脂質
  3. グリセロリン脂質
  4. スフィンゴ脂質
  5. ステロール脂質
  6. プレノール脂質: カロテノイド
  7. 糖脂質
  8. ポリケチド

ここでは、一番馴染みの深い脂質である 脂肪酸 fatty acid について簡単に述べておく。

脂肪酸とは、カルボキシル基 -COOH を 1 個もつ鎖式化合物、すなわち鎖式モノカルボン酸の総称である (8)。例えばギ酸 HCOOH や酢酸 CH3COOH が代表的な脂肪酸である。炭素鎖に二重結合をもつ 不飽和脂肪酸 である DHAEPA は栄養素として有名である。



DHA の構造 (public domain)

なお、カルボキシル基 carboxyl group はカルボキシ基 carboxy group とも呼ばれる。詳細は 官能基のページ を参照。


単純脂質、複合脂質および誘導脂質

これも構造による分類である。上記の LIPID MAPS による 8 種類の分類が、現在提唱されているなかではもっとも正式な分類と言えるが、かつて Bloor が提唱した以下の分類も、まだ使われている。

ただし、この分類は厳密に構造に基づいているわけではないので注意が必要である。

単純脂質
Simple lipid

アルコールと脂肪酸のエステル。

複合脂質
Complex lipid

分子中にリン酸や糖を含む脂質。

誘導脂質
Derived lipid

単純脂質および複合脂質から、加水分解によって得られる化合物のこと。脂肪酸はここに分類される。


極性による分類

構造による分類以外にも、伝統的な資質の分類法がいくつかある。その一つが極性による分類である。

極性の低い脂質を 中性脂質 neutral lipid という。いわゆる「脂肪」に相当するトリアシルグリセロール (TAG) が代表的な中性脂質である。コレステリルエステル (CE)は、文献によって中性脂質に含めているものと含めていないものがある。

  • Neutral lipids such as cholesterol esters and triglycerides must move into cells from an aqueous milieu, yet... (4)
  • The neutral lipid is primarily triglyceride and cholesterol (5).

> CE, TG, コレステロール およびセレブロシドを中性脂質として定量した論文 (6)。

  • リン脂質と対比。Cardiolipin, PR, PI, PS, PC, Sph をリン脂質として定量。

これに対して、リン脂質など、極性が高い脂質を 極性脂質 polar lipid という。


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脂質の役割

エネルギー源としての脂質

ごく大まかに言うと、生物の主要なエネルギー源は糖質 carbohydrate、タンパク質 protein および脂質 lipid である。1 g あたりに含まれるエネルギーは次のようになっており、脂質のもつエネルギーが一番高い。

糖質

4 kcal/g

タンパク質

4 kcal/g

脂質

9 kcal/g


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References

  1. Oxford online dictionaries. Web. Link.
  2. Biology online. Web. Link.
  3. Yahoo 知恵袋. Web. Link.
  4. Bosner et al. 1988a. Receptor-like function of heparin in the binding and uptake of neutrallipids. Proc Natl Acad Sci 85, 7438-7442.
  5. Masoro et al. 1964a. Skeletal muscle lipids: I. Analytical method and composition of monkey gastrocnemius and soleus muscles. BBA 84, 493-506.
  6. Homan & Anderson 1998a. Rapid separation and quantitation of combined neutral and polar lipid classes by high-performance liquid chromatography and evaporative light-scattering mass detection. J Chromatogr B 708, 21-26.
  7. Amazon link: ストライヤー生化学: 使っているのは英語の 6 版ですが、日本語の 7 版を紹介しています。参考書のページ にレビューがあります。

Berg, Tymoczko, Stryer の編集による生化学の教科書。 巻末の index 以外で約 1000 ページ。

正統派の教科書という感じで、基礎的な知識がややトップダウン的に網羅されている。その反面、個々の現象や分子に対して生理的な意義があまり述べられておらず、構造に偏っていて化学的要素が強い。この点、イラストレイテッド ハーパー・生化学 30版 の方が生物学寄りな印象がある。

英語圏ならば学部教育向けにはややレベルが高い印象。しかし、基本を外さずに専門分野以外のことを 研究レベルで 英語で読みたいという日本人には非常に適しているだろう。輪読とかにも向いているかもしれない。翻訳版はストライヤー生化学として売られている。

  1. Amazon link: 岩波 理化学辞典 第5版: 使っているのは 4 版ですが 5 版を紹介しています。
  2. Amazon link: ハーパー生化学 30版.

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